今のアメリカは軍事的卓越性も倫理的卓越性も失って、国際社会をリードするグローバル・リーダーシップに翳りが生じている。世界のあるべき未来について指南力のあるビジョンを提示する力がなくなっている。アメリカがそれでも他国に対してアドバンテージがあるとしたら「プランをたくさん用意できる能力」だと思います。

 アメリカ人は「最悪の事態」を想定することについて怯えとか、ためらいとかがない。「アメリカ全土が焦土になる」というタイプのSF的想像力を発揮することにタブーがない。これは他国にはなかなか見ることのできない精神的な強さだと思います。軍幹部が平気で「中国と戦ったら敗けるかも知れない」というようなことを言っても、それで罷免されるとか、世論のバッシングを受けるわけではない。これ、日本だったら大変ですよ。日本は伝統的に「自軍のすべての作戦が成功して、敵軍のすべての作戦が失敗すれば、皇軍大勝利」というタイプの机上の空論をもてあそぶ軍人たちが累進を遂げる。「最悪の事態」を想定して、それに備えるというタイプのプラグマティックな知性は疎んじられてきた。それは今も同じです。

 そのアメリカもシナリオを列挙することはできますけれども、どれか一つに絞り込んで、そのシナリオの実現のために同盟国すべてを引率するという指導力はない。国際社会に広々とした希望を持たせるような向日的なビジョンを提示できないんです。アメリカは「何が起きても対応できる」力はありますけれど、それは言い換えれば「是が非でもこういう世界になって欲しい」という強い願いを持っていないということです。
 

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