白井:「不義の戦争」をやってきたことのダメージも大きいですよ。直近の事例を言えば、イラク戦争(2003~2011年)は、実際にはない大量破壊兵器をあると大嘘をついて始めました。
内田:ベトナム戦争(1954~1975年)もそうです。
白井:「トンキン湾の謀略(1964年、ベトナム戦争で米軍の本格参戦の理由になったアメリカ政府の秘密工作によって発生した軍事衝突事件)」ですね。
内田:そういうことをするとあとが祟るんですよ。いくら大義名分を掲げても、「どの口が言うか」と切り返されてしまう。これは「そっちこそどうなんだ論法(Whataboutism)」と言われる論法で、東西冷戦時代にソ連によって繰り返された欧米批判の論法です。西欧の植民地帝国がかつて植民地でどれほど非道なことをしてきたのかを棚に上げてソ連国内における人権問題を批判している。そんな資格がお前たちにあるか、という論法です。これは反論するのがまことに難しい。
白井:ノルドストリーム爆破がアメリカの仕業だとなったら、トンキン湾の謀略の再現だという話になりますよね。
内田:米西戦争(1898年)もそうでした。米海軍のメイン号がスペイン軍の機雷に触れて爆発したと言われていましたが、実際には積み荷の石炭が自然発火して起きた爆発でした。一応、メイン号事件とトンキン湾事件については詫びを入れていますが、アメリカが「そういうこと」を繰り返してきた事実は消せない。