要するに、これもアメリカのヘゲモニーの衰退の兆候ではないでしょうか。アメリカの言うことは聞きたくないと思っていても聞かざるを得ないという国々は、かつてはもっと多かった。けれどもそういう国々が「もう聞かない」と言えるようになったわけですから。

内田樹(以下、内田):アメリカの軍事力は確実に低下しています。今は中国に肉迫されている。人民解放軍は実戦経験が少ないので、実力についてはわからない部分はありますが、アメリカの軍事関係者が「中国と戦ったら負ける」と公言しているのは事実です。2017年ランド研究所の報告は「妥当な推定を基にすれば、米軍は次に戦闘を求められる戦争で敗北する」と結論づけていますし、同年、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長も「われわれが現在の軌道を見直さなければ、量的・質的な競争優位を失うだろう」と警告を発しています。

 もちろん軍関係者が「このままでは敗ける」というタイプの言明をするのは、少し割り引いて聞く必要があります。そう言わないと国防予算の増額は勝ち取れませんから、必ず自国の戦力については「もっと予算をつけないとたいへんなことになる」という評価をする。自国戦力を過大評価して、「もっと予算を減らしても中国には負けません」というようなことを口走る軍人はいません。だから、「中国に敗ける」という話は多少割り引いて聞かなければいけない話ではありますけれども、それでもアメリカの軍関係者が危機感を持っていることは間違いない。

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