しかし、英国の人々は変わった。「いや、自分たちが貧しくなったり、公共サービスが回らなくなったりしているのは、国の経済政策がポンコツだからだ」と、自分たちの苦境の直接の原因から目をそらさなくなったのだ。移民への態度が寛容になるのは、人々が経済的に楽になり、余裕ができたときだと言われてきたが、今なぜか英国でそれに合致しない現象が起きている。

 英国のEU離脱はトランプ現象の先駆けだった。そしてEU離脱を起こした国の人々の最大の関心事はもう移民じゃない。経済だ。恐れるべきはよその国から来る自分たちと同じ人間ではない。ごく少数の人だけがリッチで大多数はプアになる経済政策なのだ。英国は良くも悪しくも世界に先駆ける癖がある。反移民で票を稼いできた右派の政治の時代に終わりが近づいているのかもしれない。

ブレイディみかこ(Brady Mikako)/1965年福岡県生まれ。作家、コラムニスト。96年からイギリス・ブライトンに在住。著書に『子どもたちの階級闘争』『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』『他者の靴を履く』『両手にトカレフ』『オンガクハ、セイジデアル』など

AERA 2023年9月4日号

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