英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。
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英国のスナク首相が、フランスから英国を目指して小型ボートで英仏海峡を渡る移民の対応に苦慮しており、今年1月に英政権の最重要課題の一つとして不法移民対策を挙げたと報じられている。こうした記事だけを読めば、なるほど、英国の人々の関心事は今でも移民の問題なのかと思う人も多いだろう。
しかし、国内では興味深い調査結果が出ている。マンチェスター大学の教授がシンクタンクと共同で発表した報告書によれば、EU離脱以降、英国の人々の移民に対する考え方は大きく変化しているというのだ。最優先課題は移民問題だと答えた英国の人々は、2015年(EU離脱をめぐる国民投票の前年)には44%だったが、2022年には9%まで減っていた。
記録的な物価高と貧困の広がり(ロンドンでは、50人に1人がホームレスで緊急宿泊施設利用者というBBCの報道も出たばかりだ)、医療関係者や公共交通機関、教育関係者のストライキは終わりが見えない。英国の地べたの人々の暮らしはひどくなる一方だ。
「あなたたちが貧しくなったのは移民のせい」「公共サービスが回らなくなったのも移民のせい」。保守党の右派はそう言って人々の怒りを移民に向けさせてきた。実際、EU離脱まではこのやり方で成功したからである。