対馬病院外科の竹下隼人医師は、病院での外科業務を主としつつ、担当した消化器がんの終末期患者が在宅を希望した場合に、訪問診療をおこなっている。「主に担当する患者はがん終末期という特殊な状況」と前置きしたうえで、竹下医師はこう話す。

「最期をどこで迎えるかということで在宅という選択肢を提案しますが、その期間は月単位や、短ければ週単位というケースも。当然、ご本人は自宅に帰りたいという思いはあるのでしょうが、家族からすると『こんな状況で病院を離れるなんて』と受け入れられないことが多いです。家族が同居しているケースも多いですし、家族に介護する力があってこそ、私たちの出番が来るという感じです」

対馬病院 外科 竹下隼人医師

 では、ICT機器導入による負担軽減などが後押しすれば、在宅医療を選択する患者・家族は増えていくのだろうか。八坂医師は「そう簡単にはいかない」と答える。前述の赤木さんは「非常にうまくマッチしたケースで、そんなケースは珍しい」という。

「まず、スマホが使えるかという問題。私の実感では、内科外来患者の7割は高齢者で、その中で70歳以上の3分の2はスマホを持っていない。持っていてもスムーズに使いこなせなければ、ICTの対象から外れます。次に、患者・家族がそのメリット、必要性を感じるかという点も重要です。毎日測定をしたり、データを管理したり、それなりに手間がかかります。この実証事業でメリットを検証して、今後どう利用していくか、考えていくべきことです」

対馬病院 院長 八坂貴宏医師

 さらに言えば、病院側もいまは実証事業のため度外視しているが、機器・設備を準備する費用や労力に対して、診療報酬が低いことも普及への壁となるという。

 ICT機器は、在宅医療の課題を根本的に解決してくれる万能のツールにはなりえない。患者の希望、家族の支えがあり、そのうえでよりよいシステムの一助として活用できる可能性は秘めている。そして、近い将来、スマホ利用者が高齢化して介護者が当たり前のようにICTを使える時代が来ることを見据えれば、その準備をしておく必要はある。まだまだ課題は多いが、こうした先駆的な事業に取り組む意義は大きいと八坂医師は考える。

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