病院に行くことが難しい患者の自宅に、医師が訪問して診療するのが「在宅医療」だ。日本でもっとも離島が多い長崎県では、離島で在宅医療をおこなう医療機関は減少傾向にある。この課題に対して、同県は2022~23年度に医療ICTを活用して効率的な医療体制の構築を図る実証事業に取り組み始めた。その現場のひとつ、離島の対馬にある長崎県対馬病院の在宅医療を取材した。前編に続き、後編をお届けする。
【前編はこちら】「自宅に帰りたい」寝たきり患者を在宅へ ICT機器で病院が状態把握し悪化させないケア【離島の在宅医療】
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オンライン診療も導入
対馬病院は、長崎県のICT事業と並行して、今年春からオンライン診療も導入している。7月現在、オンライン診療を希望して実施している患者は6人になる。
江島茉莉花さん(31歳)は、医療的ケア児として生まれた次女の春音(はの)さん(3歳)の診療で同院の外来診療と訪問診療を受けていたが、オンライン診療の導入で「とても楽になった」と話す。春音さんもICT機器が貸与されているが、オンライン診療の補助的な位置づけだという。
茉莉花さんは妊娠中に「胎児の脳に水がたまっている」と診断を受け、2020年に福岡県の子ども専門病院で出産。産まれた春音さんはすぐにNICU(新生児集中治療室)で手術を受けた。その後も計7回の手術を受け、2020年11月に対馬の自宅に帰ってきた。夫と長女を含めて4人暮らし。いまも3カ月に1回、福岡の病院に通わなければならないが、通常の診療は月1回、自宅から車で5分と近い対馬病院で受けている。しかし、春音さんは在宅酸素療法を行っており、通院も大変だという。
「対馬病院は近いんですけど、外来は待ち時間が長く会計の終わりまでで2時間近くかかります。春音は酸素ボンベを付けて移動しなくてはいけないし、人見知りで泣き出すと酸素量も低下してしまいます。病院に行くのが億劫になっていました」(茉莉花さん)