その苦労を病院に伝えたところ、在宅医療を提案され、月1回の受診を、訪問診療と通院の交互でおこなうようになった。さらにこの春、訪問診療に置き換わる形でオンライン診療を受けられるようになった。

「オンライン診療は待ち時間がないので無理せず受診できます。タブレット端末で、春音の顔や体の傷を映すと、病院にいる医師が診てくれ、約5分で終わります。日常の生活にも影響はないです」(同)

 対馬病院は、前述の「あじさいネット」で患者情報を共有できるため、専門医でなければ対応できないことがあれば、画像を福岡の病院に送って指示を仰ぐこともできる。

在宅医療が抱える課題

 対馬病院が積極的に在宅医療に取り組み始めて3年目。病院だけではなく、在宅でも医療を受けられるという選択肢が、徐々に認知されてきている。

 訪問看護ステーションの管理者で訪問看護師の小宮早苗看護師はこう話す。

「ステーション設立最初は、在宅医療ができるということを知らない人が多かったですが、実際に在宅医療を受けることで、メリットを感じてもらえているようです。なにより、在宅だと患者さんの表情が病院と全然違う。そして、地域では『看護師さんが来てくれるらしいよ』と口コミで広がり、いまでは問い合わせも増えてきています。これからも地道に在宅医療を続けていくことで、その選択肢をもっと知ってもらえたらと思っています」

対馬病院 訪問看護ステーション 管理者 小宮早苗看護師

 新型コロナウイルス感染症の流行下では、入院患者に面会ができないことから、家族が「それなら在宅で」と考える人もいて、在宅希望が増えたという。しかし、医療者側の供給態勢が整ってきたからといって、患者・家族側の需要が急増するかというとそうはいかないようだ。

21年に設置された訪問看護ステーション(撮影/木村和敬)

 対馬病院内科部長の俵正幸医師は、在宅医療にかかわる医師の一人だ。訪問看護ステーション設立前から、限られたケースで在宅医療に携わっていた。

「それまで1例1例どうやっていこうかと手探りでやっていたのが、訪問看護ステーションができて、システム化されたことでやりやすくなりました。いまでは入院患者さんだけでなく、外来で通院が難しくなった患者さんにも在宅医療を提案するケースも出ています。ただ、本人が希望しても、在宅医療にはサポートする家族の力が欠かせません。島民は高齢者の独居や老夫婦2人の世帯が多く、希望があっても在宅に移行できるケースはそう多くはありません」 

対馬病院 内科部長 俵正幸医師
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