しかし大震災の後には点検の要請が殺到し、専門業者に来てもらうのは何カ月も先になるかもしれない。
住民自身で設備を点検
そこで住民が自分たちで点検し、トイレ使用を再開できるように「集合住宅の『災害時のトイレ使用マニュアル』作成手引き」を空気調和・衛生工学会が2020年にまとめ、ネットで公開している。災害前の準備、発災後の手順が詳しく述べられており、マンション住まいの人は必読である。
災害前に、住民自身で設備を点検できるように、竣工図などを元に、実際に現場で設備の位置を確認しておく。各系統の「第一桝(マス)」の場所を知っておくことが大切だ。誰でも点検できるように点検個所図を写真入りで作っておく。みんなで話し合って、トイレ使用可否の判断ルールもまとめておく。
地震が発生したら、いったんはトイレからの排水を禁止し携帯トイレを使う。点検個所図に従って確認し、大きな損傷がなければ、異常発生の兆候に気をつけながら段階を踏んで使用を再開する。便座のふたを閉めておいて、使用時に開けた時にふたの裏側に水が跳ねた跡があるかどうかが、異常発見の一つのポイントになる。
阪神・淡路大震災や東日本大震災、熊本地震で、地震の揺れや津波からは逃れることができたのに、その後の避難生活が原因で命を落とした人がとても多かった。災害関連死と呼ばれるそのリスクを少しでも減らすために、在宅避難の準備を整えておきたい。(ジャーナリスト・添田孝史)
※AERA 2023年8月28日号より抜粋