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「そんな日は唐突にやってきて、めちゃくちゃへこみます。何とかいい写真を撮って1日を終わりたいんですけれど、この土地の人は恥ずかしがりやなのかな、と思ったりする。1枚も撮れなかった日は、『次の日は頑張ろう』と、スーパーで酒を買ってきて、飲んで寝ます」
国領さんは「匿名の町」というタイトルで作品を発表してきたが、19年からは「群れ-むら-」に改題した。
「『匿名の町』のときは、写真を撮った相手を利用、搾取(さくしゅ)する、じゃないですけれど、傲慢(ごうまん)な気持ちがあって作品をつくっているんじゃないか、という気がしてきた」
そして、写真をそのまま並べて見てもらうような、何げない発表スタイルがいいのではないか、思うようになった。
撮影を始めたころの写真と見比べると、最近の作品は相手との距離が明らかに遠くなった。
「あまり寄って撮るのではなく、大体3メートルから5メートルの距離で、背後の村の風景も含めて撮影するようになりました。だんだんと自分の距離感を見つけて、ものの見方が固まってきたような気がします」
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なぜこれほど前向きなのか
今、地方の風景はどこも似通っている。主要駅の周辺は空洞化し、バイパス道路沿いにショッピングモールやコンビニエンスストア、ファストフード店が並んでいる。
「ぼくが撮っている風景はいつまで続くんだろうなあ、と思います。若い人が市街地にどんどん流れていって、10年後、20年後にはなくなっている集落が結構あるのではないでしょうか」
最近、これまで撮影してきたテーマの一つの区切りとして、写真集『群-MURA-』(GRAF Publishers)を出版した。これからは作品集にも写真が収められている宮崎県椎葉村に通ってみたいという。
「九州山地の背骨というか、真ん中にある村なんですけれど、全国で唯一、昔から『焼き畑』が途切れたことがない場所なんです」
焼き畑とは、森林に火を放ち、焼け跡を農地として施肥を行わずに農作物を育てる原始的な農法である。地力が落ちると、苗木を植え、森林を再生する。循環型の農業ともいえる。
「焼き畑を含めて村おこしをやっていこうという、めちゃくちゃやる気がある地域なんです。これまでいろいろな場所を訪れましたが、椎葉村ほどのところには出会ったことがない。どうして、ここに暮らす人々はこれほど前向きで団結力があるのか、見てみたい」
椎葉村への道のりは遠い。その途中で寄り道をしながら撮影を続けていきたいという。
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】國領翔太写真展「群-MURA-」
ギャラリーRoo nee 247(東京・日本橋) 8月29日~9月10日
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