三重県尾鷲市須賀利町(撮影:國領翔太)

山谷を訪れた国領さんは衝撃を受けた。

「路上でおっちゃんが昼間から酒を飲んでいるし、そこらへんでおしっこしていたり。ああ、こんなところがあるんだ、と思った」

以来、国領さんは山谷を繰り返し訪れるようになった。「興味と体だけでぶつかって撮影した」という写真は、相手との距離がとても近く、迫力がある。

ああこんなところに集落が

2014年、写真学校を卒業すると、写真誌「GRAF(グラフ)」を発刊していた「GRAF Publishers(パブリッシャー)」に参画。そのときの特集テーマ「北へ」が、その後の国領さんの作品の方向性を決定づけた。

「GRAFのメンバー全員で東北を撮って、1冊の本にしよう、という企画でした。そのときぼくは、たまたま友人がいた青森を選んだ」

青森の冬は長い。春の陽気が感じられるようになるのは4月下旬だが、国領さんが青森を訪れたときはまだ雪が残っていた。

国領さんは山谷を写していたときと同じような距離感で青森の人々を写した。それをきっかけに全国各地に足を運ぶようになった。

「自分が見たことないところに行ってみたいな、と思いました。グーグルマップを眺めて、ああ、こんなところに集落がある、どんなところなんだろう、じゃあ行ってみよう、という感じです」

長崎県対馬市峰町佐賀(撮影:國領翔太)

1カ月ほどかけて九州まで足を延ばすこともあれば、1泊2日で秩父を訪れることもある。

地方では市街地以外で人の姿を見かけることは少ない。

「主要道路から外れて、集落を訪れないと人に会えないので、レンタカーかバイクで走りまわって、気になった集落があったら、そこを歩きます。若い人が住んでいても、日中は街に働きに出てしまうので、おじいちゃん、おばあちゃんが多い」

全員に撮影を断られる日も

撮影の際は相手と会話を交わしながらレンズを向けることが多い。

「カメラをぶら下げて、『こんにちは』というところから始まるわけですが、明らかに『村の人ではない』かっこうで訪れるので、窓から観察されたり、怪しまれることもたまにあります」

ただ、誰にも出会えなかったり、声をかけた全員に撮影を断られてしまう日もある。

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なぜこれほど前向きなのか