「外資やスタートアップは転職が当たり前で、そもそも内と外という考え方が強くない。呼び方で分けるという感覚がないんです」
だが、そんな企業であっても、日本市場でビジネスをするときはその文化に合わせていた。日本企業と相対したときには、「呼び捨て」で振る舞うことも多かったという。
属人的な「文脈」は不要
それが2019年に働き方改革関連法が施行されてから変わり始めた。
「副業や兼業の解禁により、一つの組織に属するのではなく、プロジェクトごとに関わる人が入れ替わることも珍しくなくなった。終身雇用を前提とした日本の会社には『よそはよそ、うちはうち』の家制度が根付いていましたが、転職が当たり前になった今、社員は『大切な他人』へと変化しました」(大室さん)
人の入れ替わりが激しくなるほど、誰が加わってもすぐに適応できる「ローコンテクスト」も重視されるようになった。名前の呼び方一つとってもそう。目の前にいる人が自社の社員なのか、協力会社のメンバーなのか……。距離感を踏み誤らないためにも、フラットな「さん付け」がベターなのだ。
「その組織の文化や不文律を知らないと理解できないハイコンテクスト社会は、文脈をよく知らない人にとって読み解くのが難しく、ダイバーシティーにも向いていません。属人的でない、誰にでも瞬時にわかる文脈が求められるようになりました」
さん付け文化の広がりには、他者の尊重と「わかりやすさ」が込められている。(編集部・福井しほ)
※AERA 2023年8月28日号