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 自社社員のことを社外で呼ぶ際は「名字で呼び捨て」にすべし──。そんな「常識」に風穴を開ける「さん付け」カルチャーが広がりつつある。AERA2023年8月28日号より。

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「コントしてるみたいやな」

 兵庫県の介護付きシェアハウスで広報として働く前田彰さん(33)は、上司の名前を呼び捨てにしたときにそう思った。

 普段は「さん付け」で呼ぶ間柄でも、社外の相手とやり取りするときは、呼び捨てで紹介する。大学時代に始めたアルバイトで学んで以来、社会人のマナーとして染み付いている。

「学生の頃は、何回か間違えてさん付けで呼んで注意されたこともあります。今はもう慣れましたが、社内ではさん付けで呼ぶのに、急によそいきの顔するのも変やなって違和感はずっとあるんですよね」

「さん」はくすぐったい

 だから、呼び捨てにしなければいけない場面に出くわしたときは、まるで「コント・社会人」を演じているような気持ちになる。前田さんは言う。

「いろんな人がいるから言い切られへんけど、さん付けでもいいよねという空気のほうが寛容な気がします」

 4年前、外資系企業に転職した男性(45)は、仕事内容よりも「呼び方」の違いにカルチャーショックを受けた。

 いわゆる昔ながらの大手企業出身の男性にとって、部下を呼ぶときは名字に君付け。ところが、今の職場では下の名前にさん付けで呼び合うのが当たり前だという。

「しかも、取引先の前でもそのままなんです。つい名字で呼び捨てにしそうになる。仕事よりもこっちのほうが慣れません」

 先の前田さんがそう教わったように、自社社員のことを社外で紹介するときは名字で呼び捨てにするのが「マナー」とされてきた。そんな文化のもとで育った男性としては、急な「さん付け」カルチャーにくすぐったさを感じるのかもしれない。

「内と外を過剰に分けるのではなく、誰にでも敬意を払う『さん付け文化』は年々普及しています」

 そう指摘するのは、IT企業など複数社で産業医を務める大室正志さんだ。数年前から、外資系やスタートアップ企業を中心に「さん付け文化」が広がり始めたと感じている。

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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