企業の技術者が海外企業にどんどんヘッドハンティングされるのも、研究環境や報酬、待遇の面で、日本と海外では大きな開きがあることに原因の一つがあるとみる。

 ネット上では、「日本企業の技術者への待遇は最悪」「日本企業は技術者を軽んじすぎている」という声も多い。先端研究をしていればしているほど、海外との接点も増えるのだから、自分の境遇に気が付く技術者も少なくないのだろう。優秀な技術者ほど、自分の仕事の価値と報酬の乖離にあぜんとするわけだ。

 だが、日本式にも利点はある。海外では成果を上げれば報酬は青天井だが、成果が上げられなければ解雇だ。先の保証はない。日本であれば、そう簡単にクビを切られることはないのが現状だ。自分の技術を信じてリスクを負って海外に出るか、リスクを避けて安定を取るか。優秀な人ほど前者を選ぶことは自明だろう。

 これ以上、日本の優秀な人材が海外に流出することは止めなければならない。そのためには、報酬のあり方を考え直さなければならないのかもしれない。一つの例だが、お笑い芸人のダウンタウン、ハイヒール、トミーズの逸話がある。

 彼らは吉本興業の同期デビューなのだが、吉本興業からギャラの設定について聞かれたのだという。設定は2つ、「完全出来高制」「給料制」だ。売れる自信があったトミーズは完全出来高制を選び、安定を取ったハイヒールは給料制を選んだ。ところがダウンタウンの2人は「オレたちは絶対に売れる。しかし、売れるまでに5年はかかる」と、最初の5年は給料制、その後出来高制を選んだのだという。

 お笑い芸人と、技術者・研究者を比較するのはやや乱暴だが、日本企業も技術者に対してこんな柔軟な対応をしてみてもよいのではないだろうか。

(ライター・里田実彦)