※写真はイメージです(Getty Images)
この記事の写真をすべて見る

 子育て本の多くは、親のふるまい方が子どもの性格や能力の原因であるかのように書かれているものが多い。行動遺伝学研究者・安藤寿康氏は、子どもの成長に大きな影響を与えるもう一つの要因、「遺伝」に着目。科学的知見に基づいて子育てを考える。安藤氏は、新著『教育は遺伝に勝てるか?』(朝日新書)の中で、子どもの学力への影響要因について調べた大規模な研究結果を紹介。読み聞かせを行うなどの親のはたらきかけは、一定の影響を及ぼすが、しかし遺伝的素因を乗り越えるほどではなかったと説いた。さらに、家庭の収入や社会階層といった社会経済的状況も子どもの学力に大きく影響を及ぼすことが明らかにされているが、そこにはひとつの誤解があった。その内容を、同著から一部を抜粋、再編集し、紹介する。

【図】遺伝と環境が子どもに与える影響はこちら

*  *  *

収入や社会階層の影響への誤解

 親の収入や学歴が子どもの学力や進学に与える影響は、研究によって3%程度から30%ほどとばらつきこそあれ、残念ながら確実にあります。やはり収入がよい家庭ほど、子どもの学力や大学進学率は高くなる傾向があることは否定できません。金銭的に豊かであれば、本や参考書を買ってもらえたり、あちこちに旅行に連れて行ってもらって見聞を広げる機会にも恵まれますし、塾や予備校やおけいこごとなどにも通わせてもらえます。今回の研究では、その影響を統計的に除去して残る部分に効く親の子育ての効果として、読み聞かせやしつけのあり方などを検討しています。

 しかしそれとは別の視点から、家庭の収入や社会階層が子どもの学力や知能に及ぼす影響について、行動遺伝学は明らかにしています。それが家庭の社会階層と遺伝との交互作用という現象です。アメリカで行われた研究では社会階層が上位のクラスでは、学力や知能に及ぼす遺伝の影響がより大きいのに対して、社会階層が下位のクラスでは逆に共有環境の影響が大きく出るのです。

次のページ
経済的に恵まれない家庭にサポートを