しかしもしこれが遺伝が原因だったらどうなるでしょう。つまり子どもが遺伝的に学業成績が良いほど、親も子どもによりたくさん読み聞かせをしたとしたら、一卵性のきょうだい間ではこの因果関係が同じ程度に現れますので、一方への読み聞かせの程度ときょうだいのもう一方の学業成績の相関が高くなりますが、二卵性だときょうだいで遺伝的に違いますので子の相関は低くなります。この考え方に基づいて統計的な解析をすることで、読み聞かせと学業成績との因果関係が遺伝と共有環境、そしてさらには非共有環境によってどの程度を説明できるのかを推定できるのです。

 ここでご紹介する調査は、科学技術振興機構(JST)の資金で首都圏に住む双生児家庭を対象に行ったかなり大規模なもので、小学校低学年だけでも784組もの双生児家庭が参加してくださいました。この小学校低学年の結果が興味深いので詳しくご紹介しましょう。

 子どもの学業成績は、算数と国語についてどの程度の成績を取っているかを4段階で答えてもらっています。小学校低学年の子どもはまだ自分でアンケートに答えるのは難しいので、調査はすべて親のアンケート報告、つまり親による主観的な意識評定によって行われています。しかも学校による評価の違いは反映されていませんから、本当の学力かどうかは確かではありません。しかしそれでも次のような興味深い結果が浮かび上がってきました。

 子どもの学力評定に統計的に有意にかかわっていることがわかったのは、次の四つの項目でした。

(1)読み聞かせをしたり読書の機会を与えてあげること

(2)親が子どもに「勉強しなさい」と言わないこと

(3)子どもをたたいたりつねったりけったりしないこと

(4)子どもを自分の言いつけ通りに従わせること

 このうち一番子どもの学力に影響を及ぼしていたのは読み聞かせや読書の機会((1))で、その個人差だけで子どもの学力のばらつきの5.1%を説明します。ところがその内訳を遺伝と環境に分けて見てみると、さらに細かいレベルで興味深いことがわかります。

次のページ
子どもに対し「勉強しなさい」は必要か