親が子どもに読み聞かせしようと思っても、子どもがそれを聞こうとしなければ成り立ちません。一方、子どもがいくら読み聞かせをしてほしいと思っても、親の方にその気がなければやはり成り立ちません。さらにふたごのきょうだいは、一卵性であっても個性があり、いつも一緒に同じだけ読み聞かせをしているとは限りませんから、どちらか一方によりたくさん読み聞かせをしている場合もあるでしょう。
子どもが本の読み聞かせを聞こうとする傾向は遺伝の影響として、親から読み聞かせをする傾向は共有環境の影響として、これらの影響力を、行動遺伝学の分析は統計的な手法によって算出することができるのです。そしてその結果、子どもが親から読み聞かせをしてもらいたいと思う遺伝的傾向の影響力が0.9%、親が子どもたちに読み聞かせをするという環境的働きかけの影響力が3.9%、そして特に一人ひとりに個別に読み聞かせをする環境的働きかけの影響力が0.3%強あることが示されました。これは子どもの読み聞かせに対する遺伝的素質いかんにかかわらず、親自身の積極的働きかけによって4%近く、学力を上げる可能性があることを意味します。これはかなり大きな効果があるといえます。
このデータでは、親が子どもに「勉強しなさい」と言わない方が成績が良いことも示さました((2))。これは因果関係が逆でしょう。つまり親が「勉強しなさい」と言うのを我慢する方が子どもの成績が上がるという意味ではなく、子どもの成績がそもそも良いので、親はわざわざ「勉強しなさい」と言わずにすんでいると思われます。ですので、右記と同じように親の声がけと子どもの学業成績との関係を遺伝と環境に分けて見ると、遺伝的には「勉強しなさい」と言われない傾向の子ほど勉強ができるという関係が10.3%を説明します。しかし興味深いのは環境では逆に「勉強しなさい」と言った方が共有環境として6.5%、非共有環境としてさらに1.4%を説明することがわかりました。これはいったいどういうことかというと、まず全体的に見れば、遺伝的に成績のいい子の方が勉強をしなさいと言われない傾向にある、しかし成績に関して遺伝的に同程度であれば、その中では勉強しなさいと諭されたほうが成績が良くなるというわけです。子どもの能力と親の働きかけの駆け引きが垣間見られる結果だといえるのではないでしょうか。