これと同じ傾向が、(3)子どもをたたいたりつねったりけったりするという虐待行為についても見られました。全体的には成績のいい子ほどたたかれたりつねったりけったりはされないという傾向で9.4%説明されますが、子どもの聞き分けのなさが遺伝的に同じ程度だと、このような「しつけ」をされる子の方が、非共有環境としてわずか0.5%ですが成績を高めています。

 ただし、「しつけ」と称して行う暴力行為は決して許されるものではないことを、ここでお断りしておきます。

 親が子どもに言うことをきかせようとする傾向と学業成績との関係((4))については、全体として0.8%とごくわずかな効果量しかありませんでしたが、ここには遺伝の影響は全くかかわっていないことがわかりました。親の言いつけに従わせる傾向自体は35.6%ほどの遺伝の影響がある、つまり子どもの遺伝的な傾向が親の言うことをきくかどうかに影響を受けるのは確かなのですが、それと学業成績とは関係なく、親が子どもに言うことをきかせようとするほど子どもの学業成績がよいという共有環境の影響が0.2%、また一卵性であっても一人ひとりに固有に言うことをきかせようとするかどうかの違いで0.3%が説明されました。

安藤 寿康 あんどう・じゅこう

 1958年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。慶應義塾大学名誉教授。教育学博士。専門は行動遺伝学、教育心理学、進化教育学。日本における双生児法による研究の第一人者。この方法により、遺伝と環境が認知能力やパーソナリティ、学業成績などに及ぼす影響について研究を続けている。『遺伝子の不都合な真実─すべての能力は遺伝である』(ちくま新書)、『日本人の9割が知らない遺伝の真実』『生まれが9割の世界をどう生きるか─遺伝と環境による不平等な現実を生き抜く処方箋』(いずれもSB新書)、『心はどのように遺伝するか─双生児が語る新しい遺伝観』(講談社ブルーバックス)、『なぜヒトは学ぶのか─教育を生物学的に考える』(講談社現代新書)、『教育の起源を探る─進化と文化の視点から』(ちとせプレス)など多数の著書がある。

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