しかし、全国規模のデータでなくても、5年生存率向上という期待を裏付けるデータはないものか、高橋医師に尋ねると「さまざまな国際臨床試験の結果では、ステージ4でも、5年生存率が20%、30%を超えるという驚くべきデータが出ている」と教えてくれた。

※写真はイメージです(写真/Getty Images)

現在の肺がんの薬物治療の概要は?

 詳細を解説してもらう前に、現在の肺がん(非小細胞肺がん)の薬物治療の概要を説明しておこう。

 近年、ドライバー遺伝子の変異が次々に見つかり、その変異のタイプによって、それを標的にする数々の分子標的薬による治療がおこなわれるようになってきた。肺がんの薬物療法はまず検査で遺伝子変異を探し、見つかればその遺伝子変異に効果のある薬による治療をおこなう。現在、ドライバー遺伝子変異は9種類あり、選択肢が豊富なため、7〜8割の人に治療が適応でき、薬の有効性はとても高い。

 変異が見つからない場合や、薬物に対する耐性で効果が弱くなったり、なくなる場合に使われるのが免疫チェックポイント阻害薬だ。

 ヒトには、自己免疫が活性化し過ぎると、自分の体を攻撃する自己免疫疾患を発症するため、免疫細胞にブレーキをかける免疫チェックポイント分子というものが備わっている。 がん細胞はそれを巧みに利用して増殖することがわかったため、そのブレーキを外して免疫細胞によりがん細胞を叩く治療法が免疫チェックポイント阻害薬による治療だ。

ステージ4の人でも治癒に近い状態までいける

 国際的な臨床試験による免疫チェックポイント阻害薬の5年生存率のデータについて、高橋医師はこう説明する。

「『KEYNOTE024』という国際的な臨床試験の結果が2020年に学会で発表されました。キイトルーダ治療群と従来の抗がん剤群を比較し、5年生存率は31.9%という高率でした(抗がん剤群は16.3%)。もちろん臨床試験に入っている患者さんは、薬の効きやすい条件を持っていて、全身状態も良好な人たちですが、それにしてもこれは驚異的な結果です。肺がんのステージ4の人でも治癒に近い状態までいける。場合によっては治癒に導けると言っても過言ではないということです」

『KEYNOTE024』の生存率曲線(高橋医師提供)
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「PD-L1」 の発現を調べる検査で治療が決まる