──われわれの力不足だけではないが、と紀藤さんは仰った。ではやはり、政治の力こそが日本にカルトが蔓延(はびこ)る元凶ということ?
「それもですが、『信教の自由』という名の思考停止があるのかもしれない。戦前の宗教弾圧に対するアンチテーゼであると同時に、戦後に解体された神道に触れたくない思いを正当化してくれる機能も帯びたのが、『信教の自由』ではなかったか。
現代社会においては、表現の自由と同じように、おのずと限界も生じてきているはずなのですが、高学歴の知識層ほど、この問題には慎重になりがちで、そういう傾向が、カルトの温床にもなっているのだと、僕は思う」
国家内国家としてのカルト 日本はどう対策するのか
──時代が移ろうと、立場やら価値やらがひっくり返ることがありますね。
「ざっくり言いますよ。カルトというのは国家内国家みたいなものだから、特定秘密保護法とか、以前だとスパイ防止法か、国家安全保障の問題と密接に関わってきてしまうんです。日本は、オウムの事件の当事国であるにもかかわらず、国家内国家としてのカルトをどう考えるのかを、きちんと総括していません。アメリカもフランスも議会報告書を作り、その後の対策に繋(つな)げたというのに。日本でも、これからはセキュリティ・クリアランス(機密情報にアクセスできる資格者を政府が認定する制度)の問題とも絡めて、カルトを考えざるを得なくなります」
ハードな議論の折々に、ふと見せるほほえみは優しい。山本ゆかりの言う「鶴の恩返し」のときも、きっとこんなふうだったのだろうと思った。
統一教会の教祖・文鮮明(1920~2012)の3番目の妻で、現在は教団トップの座にある韓鶴子(80)はさる6月末、教団内部の集会で、「岸田(文雄首相)をここに呼びつけ教育を受けさせなさい」と述べたという(朝日新聞7月9日付朝刊など)。紀藤の闘いは、いつまで続くのか。
(文中敬称略)
(文・斎藤貴男)
※AERA 2023年8月7日号