「昨年、旧統一教会の被害者救済事件から得た収入はほぼない。なのに金儲けだって批判される」
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 弁護士、紀藤正樹。30年以上前から、霊感商法やカルト集団の被害者救済に奔走してきた第一人者だ。「人権を侵害する制度があるなら、それは法が変わるべき」と紀藤は言う。善悪がゼロか百かではない複雑な問題に向き合い続ける人権弁護士は、どんな人物なのか。

【写真】講演する紀藤正樹さん

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 さる6月7日、東京・四谷の主婦会館プラザエフ。主婦連合会主催の消費者ゼミナール「霊感商法 被害の根絶に向けて」の講師に招かれた紀藤正樹(きとうまさき・62)は、こう切り出した。

「こうしてよく講演に呼ばれます。ただ、やっぱり安倍(晋三)元首相の襲撃事件後の講演は、正直言って、とても悲しい。これは安倍さんにとっても、加害者である山上(徹也)容疑者とその家族にも悲劇です。旧統一教会の問題をもっと早く解決できていれば、どちらの悲劇もなかったかもしれないと考えると、切なくなってしまう」

 長く消費者問題に取り組み、とりわけ霊感商法やカルト集団の被害者救済で実績を積み重ねてきた弁護士だ。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をはじめ、オウム真理教、安愚楽(あぐら)牧場、近未来通信、神世界など、手掛けた事件は数知れない。敢(あ)えて肩書を挙げれば、日本弁護士連合会(日弁連)消費者問題対策委員会の筆頭副委員長、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の事務局長代行、昨年11月に200人超の弁護士で結成された全国統一教会被害対策弁護団(団長=村越進・元日弁連会長)の副団長等々。

 昨年7月8日の、奈良市の近鉄・大和西大寺駅前で応援演説中の安倍が、銃撃・殺害された事件以来の超人的な多忙さは、したがって自然の成り行きだ。現行犯逮捕された山上の動機は、旧統一教会に対する恨みである。安倍はその後ろ盾であったがゆえに狙われたのだから。

 本来の弁護士業務や救済活動に加え、政治家や関係省庁への働きかけ、SNSやメディアへの露出を通じた情報発信……。筆者が本稿の取材で、久々に紀藤と会ったのは、そんな只中(ただなか)だった。汗と脂で薄汚れ、疲れ切った表情は、テレビで見る弁舌爽やかな印象とはかけ離れていた。

「家に帰っていないので、シャワーも浴びてない。さっき濡(ぬ)れたタオルで髪の毛を拭いたばかり。脂が取れる気がするんで。家と事務所の往復の時間がもったいない。とにかく眠る時間を確保しないと、頭が働かないんですよ」

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