AERA 2023年8月7日号より

 急速な経済発展を続けるインド。世界的な企業のトップにはインド出身者の名を連ねる。そんな優秀な彼らを生み出した土壌に注目が集まっている。今のインドを語る上で、欠かせないキーワードのひとつが「教育」だという。AERA 2023年8月7日号の記事を紹介する。

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 教育現場に専門性の高い人材を紹介するマッチングサービス「複業先生」を運営するLX DESIGN(東京都)の金谷智社長(33)は25日早朝、羽田空港からインド便に乗り込んだ。初のインド上陸を前に金谷社長は期待を込めて、こう話す。

「人口が多いということは、子どもが多くて、学校が多くて、常に新しい先生を必要としているということ。オンラインで世界中をつなぎ、良い先生から学ぶ複業先生は受け入れてもらえるのではないか」

 インドに拠点ができれば、ヨーロッパ、アジア、アフリカに近い立地を生かし、さらにサービス範囲を拡大したいという。

 ニューデリーで金谷社長を出迎えるのは、同社メンバーで「複業先生」でもある見上真生さん(45)だ。もともと設備メーカーの駐在員として16年に渡印したが、のびしろいっぱいのインドの可能性を体感し、退社。妻と2人の娘とともにインドにとどまる道を選んだ。

「インドは『3割スタート』をさせてくれる国。とりあえず学校で導入してもらい、良さを伝えていきたい」(見上さん)

AERA 2023年8月7日号より

 金谷社長らが狙う「教育」も、今のインドを語る上で欠かせないキーワードのひとつだろう。グーグルやマイクロソフト、スターバックスなど、世界的な企業の最高経営責任者(CEO)には今、インド出身者がずらりと並ぶ。「インド人」イコール“優秀”という認識が定着するにつれて、彼らを生み出す土壌に注目が集まる。

「どの親も、子どもの教育に非常に熱心で厳格です」

 と話すのは、ベンガルール市内で1歳から6歳までを対象にしたプリスクール「Papagoya」を経営するヘレン・イサールさん(38)。大学卒業後にノルウェーで4年半、マーケティングの仕事をした後、インドに戻り、長女(8)を出産。働き続けたかったが、当時は幼い子どもを長時間預かってくれる場所がなかったという。「だったら自分で創ろう」と16年にPapagoyaを立ち上げた。現在、市内2カ所の校舎に計100人の子どもたちが通っている。保護者の9割が共働きだ。ヘレンさんは、

「女性が働き続けることが、インドでも当たり前になりつつあることを感じています。机に座っての勉強ではなく、好奇心を持って自由に日々を楽しむことを大切にしています。良い学びは、将来の良い仕事につながることをみんなわかっています」

 と熱心に語って、最後に付け加えた。

「インドは複雑な経済階級の国です。だから、全員が同じ教育を受けられるわけではなく、私の話がインドを代表するものでもありません。20人に聞いたら、20人が違うことを言う。それがインドです」

 多様性と混沌を抱えながら発展していくインド。その実態も魅力もひとことでは伝えきれない超大国であることは間違いない。(編集部・古田真梨子)

AERA 2023年8月7日号より抜粋

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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