セントラルパークで蟻の観察をしている久保さん親子

《アメリカ人に、私が2 年半以上の育児休業を取っていると話すと驚かれる。「アメリカはこの点で本当に遅れている。日本は進んでいるんだなぁ」と感心されるのだ。私が日本人男性の評判を押し上げているのは間違いない。》

――アメリカでパパ仲間をつくるのは難しそうですね。

 平日公園に行くと、パパはもちろんママの姿さえもほとんどないです。アメリカは公的な育休制度があまり整っていなくて、基本的には両親共働きでベビーシッターさんが子どもの面倒を見ている。男性だけで子どもを連れている姿なんてほぼ見ないので、「なんだあのアジア人は?」って変な目で見られているかもしれないです。

《私の料理の腕前は酷いものだが、幸い、子どもはまだ味が分からない上、文句も言わないから簡単である。2 歳にもなれば、だいたい何でも食べさせて良い。しかし、どういうわけか逆に何も食べなくなる。味に厳格になり、不味いものは食べなくなるのだ。これは妻のせいである。時々私に代わって妻が美味しい夕飯を作るからだ。》

――物理学者としての経験が、家事に役立ったことはありますか?

 哺乳瓶を熱湯や蒸気で殺菌するときにいつも思い出していたのは、自分がこの業界に来て最初にやっていた、「超伝導空洞」という装置の洗浄です。ミクロのごみも許されない作業でした。哺乳瓶の殺菌状態を保つためには、絶対にタオルで拭いたり触ったりせず、自然乾燥すること。そのせいかは分かりませんが、うちの娘は生まれてから一度も熱を出したことがありません。

《私には短いながらも某省の官僚としてサラリーマンをやっていた時期があるが、少なくとも私にとっては、サラリーマン時代よりも今の主夫生活の方が圧倒的に気楽である。朝から晩まで、上司や同僚のプレッシャーもないなか、愛する子どもの世話をしていれば良いのだ。ただし、晩には上司が帰って来ることを忘れてはいけない。》

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台所で大根を切っていると……