――3年近い育休を取るうえで、仕事上の懸念や不安は一切なかったのですか?
僕は、〝国際リニアコライダー〟という、宇宙誕生の瞬間を再現できる粒子加速器を開発するプロジェクトに携わっているんですけど、僕自身の仕事に限れば、チームでの実験よりも、一人で理論研究を進めるほうに重点を置いているので、周囲に迷惑をかける心配が少なくて。僕がいなくなって困ることって、実験関連の当番のシフトがちょっと早く回ってくるくらいです。
まあ、3年も離れていたら、世界中でいろんな研究が進んで完全に置いていかれちゃうだろうなとは思いました。でも、僕は天才ではないので、育休を取っても取らなくても、大発見やノーベル賞を逃すようなことはない。凡人でよかったです(笑)。
《晴れて専業主夫になりニューヨークへとやって来たのは、子の誕生から数か月が経った2021年5月のことである。~中略~(街では)危険な眼つきの男がすれ違う人々に罵声を浴びせながら歩いている様子などは最低でも1 日1 回は見る。人糞には要注意である。歩道を横切るように流れる黄色い液体は尿であるから踏んではいけない。地下鉄へと繋がるエレベーターの中は尿まみれで足の踏み場はない。踏むしかない。ここは地獄であろうか。否、ニューヨークである。東京に帰りたいと一日に何度も願うが、それは叶わぬ夢である。こうして私のニューヨーク専業主夫生活が幕を開けた。》
――NYは育児向きの環境ではないのでしょうか?
インフラに関しては、日本と比べて圧倒的に不便です。駅にエレベーターがないし、あったとしても、中に尿とか便とか……。すごい臭いです。しかも夜になると、注射器で薬物を打っている人がいるから、頑張ってベビーカーを持ち上げて階段を登るしかない。
実際、僕自身は駅の改札で知らない人に背中を殴られたこともあるし、公園の子ども専用エリア以外はなかなか娘を歩かせられないですね。外では、必ずベビーカーに乗せています。スターバックスの入り口とかでベビーカーの方向転換をしていると、中からお客さんが走ってきてドアを開けてくれたりと、子ども連れに寛容なムードはありがたいんですけど……。