安倍氏の説明のとおりだとすれば、それと同じ構図が、今回の安倍氏と秘書の関係において生じていたということなのである。
このように、安倍氏の説明には多くの疑問があり、桜を見る会問題でのウソが発覚した後も、さらにウソを重ねている疑いが濃厚だった。しかし、国会で、この問題について、「前首相」を徹底追及する場は、その後全くなかった。
「ウソの構図」が放置されたまま、安倍氏やその支配下、影響下にある政治家が日本の政治を動かすことは決して許してはならなかった。政治に「最低限の信頼」を取り戻すためには、安倍氏側や関係先に説明と資料提出を求め、ウソの中身をすべて明らかにするとともに、首相の「虚偽答弁」の動機と経過を詳細に明らかにしていくことが不可欠だった。
安倍氏は、記者への「弁明会」と国会で、凡そ説明にならない説明を終えた後、「次の選挙で信を問いたい」などと語った。
安倍氏が言っていることは、要するに、「『説明責任』など糞くらえだ。地元の有権者は、そんなこととは関係なく、無条件に自分を支持してくれる。だから、首相在任中の選挙はすべて圧勝してきた」ということだった。
安倍氏が、首相の国会での虚偽答弁という「憲政史に残る汚点」について、納得できる説明も行わないまま次の選挙で再び勝利することで禊が済まされるというのであれば、「虚偽答弁」の背景にある、日本の政治を支配してきた「ウソの構図」が放置されたまま、それ以降も、「説明責任を果たさないウソの政治」が横行することになる。
それは、弁解の余地のない首相の不祥事であった桜を見る会問題を、さらに「単純化」し、矮小化し、日本の民主主義の根幹を歪めるものだった。
郷原信郎 ごうはら・のぶお
1955年生まれ。弁護士(郷原総合コンプライアンス法律事務所代表)。東京大学理学部卒業後、民間会社を経て、1983年検事任官。東京地検、長崎地検次席検事、法務総合研究所総括研究官等を経て、2006年退官。「法令遵守」からの脱却、「社会的要請への適応」としてのコンプライアンスの視点から、様々な分野の問題に斬り込む。名城大学教授・コンプライアンス研究センター長、総務省顧問・コンプライアンス室長、関西大学特任教授、横浜市コンプライアンス顧問などを歴任。近著に『“歪んだ法"に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」』(KADOKAWA)がある。