現在の将棋界は、ハイスペックなコンピューター、最新のソフトを用いての研究が必須。木村も若手に負けず、その競争についていく。
「やっぱりそういったところは持ち続けないと。私なんか一生懸命やっても現状維持がせいいっぱいだから。それをなくしたら、グラフがこうですよ」(指をガクッと下げるしぐさ)
木村は現在、超早指しのABEMAトーナメントでも大活躍している。自身抜群の成績をあげ、率いるチームは決勝に進出した。ベテランにとって不利とも思えるルールで、なぜここまで勝てるのか。
「我慢しなくてもいいことが大きいのかと思います。普通の持ち時間が長い対局だと、形勢が不利なときは我慢して相手のミスや、ややこしくなるのを待っているのがいいんです。でも年老いるにしたがって我慢が足りなくて負けることが増える。それが早指しだと目立たず、かえってうまくいったりすることもあって」
(文/松本博文)
※松本博文著『棋承転結 24の物語 棋士たちのいま』(朝日新聞出版)から一部抜粋/AERA2021年9月27日号初出