高裁判決について指宿弁護士は「私たちが主張していた『差別されない権利』が憲法にもとづく人格権として認められた。裁判史上初めてと思う。今後、部落差別以外にも外国人やLGBTなどさまざまな差別された人の救済に使える、画期的な判断だ」と高く評価した。

 裁判所は「差別」という言葉を使いたがらないことがしばしばある。今回の訴訟でも東京地裁判決は、「差別されない権利」の侵害を訴えた原告の主張について「原告の主張する権利の内実は不明確であって、どのような場合に原告ら主張の権利が侵害されているのかは判然としない」と、そっけなく退けていた。

 しかし東京高裁判決は一転、部落差別という言葉の意味をていねいに定義したうえで、「不当な差別を受けることなく人間としての尊厳を保ちつつ平穏な生活を送る人格的な利益」について「法的に保護された利益」だと明言。被差別部落をめぐる「地域の出身を理由とする不当な扱い」は「差別」なのだということに、繰り返し言及した。

 しかも、「出身情報が公表され広く流通することは、一定の者にとっては、実際に不当な扱いを受けなくても不安感を抱き、おびえるなどして平穏な生活を侵害されることになる」とも述べ、地名情報の公表だけでも「差別されない人格的利益」の侵害にあたると判示した。

 高裁が今回、踏み込んだ判断を示した理由について、指宿弁護士はこう解説した。

「原告のみなさんが部落差別の現実について陳述書を書き、法廷で訴えた。学者の協力を得て、差別の歴史や実態についての意見書や資料も多数提出した。これによって差別の実態とともに、差別は許せないという原告の気持ちが裁判官に伝わったのだと思う」

 そして「裁判官としても勇気を持って書いた判決ではないか」とも語った。

東京高裁判決後、記者会見する(右から)片岡明幸・部落解放同盟副委員長、西島藤彦・同委員長、指宿昭一弁護士、河村健夫弁護士=2023年6月28日、東京・霞が関、北野隆一撮影
東京高裁判決後、記者会見する(右から)片岡明幸・部落解放同盟副委員長、西島藤彦・同委員長、指宿昭一弁護士、河村健夫弁護士=2023年6月28日、東京・霞が関、北野隆一撮影

 今回の地名リスト問題を契機に制定された部落差別解消推進法や、ヘイトスピーチ解消法は、いずれも差別について「あってはならない」「許されない」と述べている。しかし両法に差別を明確に禁止する規定はない。川崎市は2019年、全国で初めて差別行為に刑事罰を科すとの条項を盛り込んだ条例を制定。各地の自治体で追随する動きがあるが、まだ少数にとどまる。このことが、差別の被害を訴えて司法や行政に救済を求める人たちにとってはハードルになってきた。

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出版社経営者「いくらでも悪用可能な恐ろしい判決」