今回の高裁判決で土田裁判長は、「プライバシー権侵害」を中心に立論した一審判決とは異なる論理を展開した。

 まず部落差別について、

「わが国の封建社会で形成された身分差別により、経済的、社会的、文化的に不合理な扱いを受け、一定の地域出身であることを理由に結婚就職を含むさまざまな日常生活において不利益な扱いを受けることである」

 と定義。そして、個人の尊重や幸福追求権を定めた憲法13条と、法の下の平等を定めた14条に言及し、以下のとおり述べた。原告が今回の高裁判決を「画期的だ」と高く評価する一節である。

「人は誰しも、不当な差別を受けることなく、人間としての尊厳を保ちつつ平穏な生活を送ることができる人格的な利益を有するのであって、これは法的に保護された利益である」

 そのうえで高裁判決は、

「部落差別は本件地域の出身というだけで不当な扱い(差別)を受けるものであるから、問題の根深さ、その後の人生に与える影響の甚大さ、インターネット上の部落差別の事案は増加傾向にあることに鑑みると、本件地域の出身を推知させる情報の公表は、上記の人格的な利益を侵害する」と認定。「公表禁止や削除、損害賠償といった法的救済を求めることができる」と述べた。

 地名リストの公表禁止や削除などの法的救済を認めたという結論部分は一審の地裁判決とも共通しているが、高裁判決は救済の根拠を、一審段階の「プライバシー権」に限定せず、「差別されない人格的利益」を新たに認めるという踏み込んだ判断を示した。

 このため救済対象の範囲も、一審より広がる結果となった。地裁判決では、原告の現在の住所や本籍がリストにないという理由で、6県が除外されていた。このため控訴審で原告側は「過去の住所や本籍、本人以外に家族の住所や本籍までも検索され、差別に使われる場合がある」ことを、実例をあげて立証した。

 その結果、高裁判決は、「差別されない人格的利益」を根拠に、過去に原告本人の住所や本籍があった場合や、家族の住所や本籍が現在または過去にあった場合も救済範囲に含めるとの新たな判断を示した。このため救済対象は25都府県から31都府県に広がった。

次のページ
「裁判官としても勇気を持って書いた判決ではないか