訴えによると出版社は2016年2月、戦前の調査報告書「全国部落調査」を復刻出版した書籍を販売するとネットで告知。ネット上に地名リストや解放同盟幹部らの名簿を載せた。

 原告は「日本社会には被差別部落出身者を忌避する感情が残っている」と指摘。地名リストの出版やネットへの掲載が差別を助長し、原告の(1)プライバシー権(2)名誉権(3)差別されない権利(4)部落解放同盟が業務を円滑に行う権利――の四つの権利を侵害すると主張した。

 一審での焦点の一つは、地名リストの公表が人権侵害に結びつくかどうかだった。地名リスト自体は個人情報ではないため、個人情報の暴露によるプライバシー侵害にあたるかどうかが争われた。地裁判決は地名リストについて、「個人の住所や本籍と照合することで、被差別部落とされた地域かどうかが容易にわかる」として、個人の住所や本籍の公表と同様のプライバシー侵害にあたると認定した。

 しかし地裁判決は、原告が主張した四つの権利のうち、(1)プライバシー権(2)名誉権の二つの侵害は全体では認めた一方で、(3)差別されない権利(4)部落解放同盟が業務を円滑に行う権利の二つは否定した。また、現在の住所や本籍が地名リストにない人については、過去の住所や本籍がリストにある場合でも「照合による調査が容易とはいえない」として、個別のプライバシー権侵害を否定した。

 今回の訴訟では、「全国部落調査」に地名が掲載された41都府県のうち、31都府県に住む原告が提訴している。地裁判決はこのうち25都府県について、出版禁止やネットからの削除を認めた一方で、裁判中に原告が亡くなったり、原告のプライバシー権侵害が認められなかったりしたことなどを理由に、6県分を対象からはずした。

 原告と被告の双方が、一審判決を不服として控訴した。被告側は、「だれかの戸籍謄本や住民票は出していない。地名を出しただけでプライバシー侵害というのはおかしい」と反論していた。

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「差別されない人格的利益」を新たに認める踏み込んだ判断