STAP細胞事件は、「科学」に対する社会の信頼を大きく揺らがせた。研究の現場では今、何が起きているのか。本書は東大を退官した医学研究者が、「真理追究」というより「生活の手段」という側面から科学にスポットを当て直したものだ。
マスコミが報道するのは、傑出した研究業績を上げた人か、スキャンダルにまみれた研究者か、どちらか。しかし、そのいずれも「両極端」と著者は言う。科学といえど、一種の競争社会。予算を求め国や民間に研究成果をプレゼンしなければ生き残れない現状の姿は「俳優兼プロモーター」に近い。
科学者の評価を決めるのは結局のところマスコミへの露出ではなく、研究(論文)内容だ。しかし地位を得るほど学務や教育に時間を取られ、研究現場から遠ざかることも「否定できない事実」という。研究者自身が語る「にっちもさっちも行かない現状」だからこそ、具体的な説得力が伴う。期待を裏切られる部分もあるかもしれないが、研究者志望の若者などには現実を知る良い教科書になるだろう。
※週刊朝日 2015年3月27日号