家に帰った優紀さんは、日に日に元気を取り戻していった。
「底辺まで落ちたから、その反動で一気に良くなったのではないかと言われました」
優紀さんは職業訓練所に通い、パソコンを練習してワードやエクセルの資格を取った。さらにマッサージの学校に通って技術を取得し、商業施設のマッサージ店で働き始めた。
しかし、もともとコミュニケーションが苦手な優紀さん。マッサージ店の仕事はお客さんと一対一になることが多いため、動悸が激しくなったり、ぐったりと疲れてしまったりした。
「自分には向いていないかもしれない」。
せっかく見つけた職場だったが、3年足らずで退職した。
◆姉の暴言とDVに悩まされたが、父は無関心だった。
優紀さんが置かれた状況を理解しようとするとき、家族のことは避けて通れない。
優紀さんは、体調以外にも大きな悩みを抱えていた。4つ上の姉からのDVだ。姉はふだんは優しいが、機嫌が悪いと優紀さんに暴言を吐き、暴力を振るう。不登校時代は、「なぜ学校に行かないんだ」と殴られた。髪をつかんで引きずり回されたり、お腹を蹴られたりすることも。ときにはハサミや包丁が飛んできて、命の危険を感じたこともある。
「でも私は、自分がDVを受けていたという自覚がなかったんです。ひどいきょうだいげんかだとしか思っていなかった」(優紀さん)
母親が生きていたときは止めに入ってくれていたが、今は守ってくれる人がいない。父親は姉が暴言を吐いていても、イヤホンをしてテレビを観ているだけ。暴力が始まると、自分の部屋に入ってドアを閉めてしまっていた。思い返せば、中学で不登校になったときも「熱心」な母親とは対照的に、父親は自分に何かを求めたり、希望を口にしたりすることはなかった。
「私にはまったく関心がないんです。面倒なことには関わりたくない人」(優紀さん)
そのうち優紀さんは、姉が近づいてくるだけで、膝を抱えて座り込むようになった。
その姿を見て、ある日姉ははっと気づいたように言った。
「私、あんたがそんなに怖がるようなひどいことしてたんだね」