その日からは、暴言は度々あるものの、手を出されることはなくなった。

  マッサージ店を辞めた優紀さんは、再び引きこもる生活になっていた。昼夜逆転で、ゲームばかりする毎日。そんな自分が嫌でたまらないが、変わることができない。

 「もう、消えてしまいたい」

  呼吸が苦しくなることも多く、夜は眠れない。だんだんと、食も細くなっていった。

「あんた、これからどうするの」

 姉は優紀さんに詰め寄った

「私はあんたの面倒は見られないよ。働くか、支援団体に頼りなさい」

皮肉なことに、結果的にはこの姉の突き放すような一言が、優紀さんが前を向いて進むきっかけになった。その後、優紀さんはインターネットで就職支援団体を検索して行動を起こしたのだ。なぜかというと、姉は実家を出て暮らしていたが、過干渉ぎみで、優紀さんは常に監視されているようで息苦しさを感じていた。父と暮らし続けるのも嫌だった。

「仕事を見つけよう。そして、この家を出よう」

そう決意したのが、一年前のことだ。

◆ひとり暮らしを始めて、家族への感謝の気持ちが生まれた

 生活を立て直すために優紀さんが頼ったのは、不登校や引きこもりの若者の支援をする一般社団法人「八おき塾」だ。一人ひとりに担当コーチがついて、自立までの道のりを伴走してくれる。

 コーチに話を聞いてもらい、心の整理ができるようになったり、ボランティアを経験したりしながら、働くための力をつけていく。自分以外の人と食事をともにする習慣がなかったので、昼食の時間は苦手だったが、バーベキューやお花見などのイベントに参加できたし、ほかの受講生たちの話を聞いて、視野が広がった。アルバイトに応募するときは、面接の練習をしてもらったのも心強かった。

 何より嬉しかったのは、自分のペースで考えて、物事を決められるようになったことだ。それまでは常に周りに押し切られて、自分の意思に反することをやらされていた。しかしここでは、「時間がかかっても、自分のやりたいようにやっていいよ」と言ってもらえた。

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家族への気持ちへの折り合い