元気を取り戻してきた優紀さんに、コーチからひとつ提案があった。「やりたいことリスト50」の作成だ。ちょっと勇気がいるけれど、やってみたいこと、なんとかできるかもしれないと思うことを書きだすようにと言われ、一生懸命考えた。ひとり暮らしをしたい、カフェに入ってみたい、野球観戦に行きたい、アルバイトを始めたい……。

 そのリストの中でかなえられたものに〇をつけてきた。現在までにかなったことが20個もある。カフェや野球観戦はひとりではまだ難しくて、コーチと一緒だけれど。

「ひとり暮らしをしたい」という夢は、半年前にかなった。物件探しにつき合ってくれたコーチ、親切な不動産屋のスタッフ、保証人になってくれた姉がいたから部屋を借りることができた。

「自分ひとりでは何もできないんだな」

 自然と、家族への感謝の気持ちもわいてきた。

「今まで、私を家から追い出しもせずに置いてくれて、ありがたかったな」

  仕事は、元々子どもが好きだったので、放課後児童クラブでのアルバイトをしている。小学生のお世話をしたり、一緒に遊んであげたりする仕事だ。まだ収入は少ないが、これからも、子どもに接する仕事をしていきたいと考えている。

  家族に対する気持ちは複雑だけれど、なんとか折り合いをつけている。実家には、可愛がっていたに会うために時々立ち寄る。でもやっぱり父親のことは苦手。

  姉の部屋に泊まりに行くこともしばしば。昔のことを謝ってくれないのは不満だが、姉がいなければ今の自分はいないのも事実。優紀さんにとっては大切な居場所だ。

 優紀さんのコーチの吉永美香さんは言う。

 「優紀さんは、『自分は何もできない人間』というけれど、実際はこれまでめちゃくちゃ頑張ってきているんです。お母さんの看取り、おばあちゃんの介護、家の家事……。優紀さんがいないと回らない家だったんですよ。それに優紀さんには、自然と人が集まってくるような、穏やかな空気感があります。私の役目は、優紀さんの心が動いたときに背中を押すことだけ」

優紀さんは今でも、自分のことが嫌いで、しょっちゅう「死にたい」と思うことがある。人と接するのが苦手なのも変わらない。でも、以前よりは少しだけ前向きになれたかな、と感じている。

「まずは、自分のことを好きになりたい。時間がかかるかもしれないけれど」

(取材・文/臼井美伸)

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