
7月12日、タレント・ryuchellさん(享年27)の訃報は、大きな波紋となって日本中に広がった。社会の枠組みにとらわれない発言でたびたび話題を呼んだryuchellさんだが、生前、1冊だけ著書を残していた。思いの丈を綴った本の名は、『こんな世の中で生きていくしかないなら』(朝日新聞出版)。完成した本を前に、「言いたいことは言えた」と満足げだったというryuchellさん。一体どんな言葉を残していたのか。担当編集者の松尾信吾さんに話を聞いた。
* * *
松尾さんが、ryuchellさんに「本を出しませんか?」と持ちかけたのは、2020年の冬だった。
元々“明るく元気なおバカキャラ”で人気者だったryuchellさんが、少しずつ「SDGs」や「自己肯定感」などをテーマに社会的、哲学的な発言をするようになったのを見て、そのギャップに魅かれたのだという。
オファーを快諾したryuchellさんは「実は、今まで数十社から本の出版依頼を頂いたんですけど、ずっとお断りしていたんです」と明かした。出版社から提案される企画は、どれもryuchellさんのハッピーで、キラキラな雰囲気を押し出したものばかり。そんななか、「『自分らしさ』『他者との共生』といった社会的なメッセージを綴ってほしい」という松尾さんの提案に、「こういう本なら書いてみたい」という気持ちになったのだという。
いつでも、誰に対しても、弾ける笑顔と幸せオーラを振りまくryuchellさん。だが本を作る過程では、それとは違った一面が垣間見える発言が、次々に飛び出した。
松尾さんが最も印象に残ったのが、本のタイトルにとった、この言葉だ。
「こんな世の中で生きていくしかないなら」
ryuchellさんは、熱を込めてこう続けた。
「僕は、いくつかの武器を身につけた。それは、諦めること、割り切ること、逃げること、戦わないこと。そして、期待しないこと。これらの武器を身につけたことで、僕はこんな世の中でも幸せを感じられるようになった。自分や大事な人を守っていく自信も持てるようになった」