イオンエンジン運転を行いながら、小惑星リュウグウに向かう「はやぶさ2」のイメージ図。小惑星探査は日本の得意分野だ(写真:JAXA)
イオンエンジン運転を行いながら、小惑星リュウグウに向かう「はやぶさ2」のイメージ図。小惑星探査は日本の得意分野だ(写真:JAXA)

■小惑星探査の重要性


 こうした小惑星探査は日本の得意分野だ。2005年には探査機「はやぶさ」が長径540メートルの小惑星イトカワに到達し、一枚岩だと考えられていた微小小惑星が「がれきの集まり」であることを解き明かした。軌道変更の計算方法にも影響を与える重要な発見だった。また、後継機「はやぶさ2」は小惑星リュウグウからのサンプル持ち帰りに成功。拡張ミッションとして、世界的に例のない直径30メートル程度の小惑星探査を目指す。吉川さんはミッションの中枢メンバーのひとりだ。


「直径30メートル規模の小惑星は地球への衝突が100~200年に1度起こると考えられ、被害想定も大きくなります。こうした小さな小惑星を調べることはプラネタリー・ディフェンスにも大きく貢献するはずです」


JAXA宇宙科学研究所の管制室。この写真は2020年12月、はやぶさ2から分離した再突入カプセルの発光を追っている場面(写真:JAXA)
JAXA宇宙科学研究所の管制室。この写真は2020年12月、はやぶさ2から分離した再突入カプセルの発光を追っている場面(写真:JAXA)

 一方、探査機をぶつけて軌道を変えられるのは直径300メートル程度までで、より大きなものにどう対処するかは検討課題だという。宇宙船を長期間並走させ、引力で軌道をずらす方法や、核爆弾を手前で爆発させて衝撃で軌道を変える方法が想定されるが、実現はかなり先になりそうだ。また、回避できない場合にどう周知・避難させるかも議論が必要だろう。それでも、吉川さんは力強く言う。


「今のところ危険な天体は見つかっていませんし、観測技術はさらに進歩します。近い将来、小惑星衝突は脅威ではなくなるはず。それに小惑星は地球にぶつかれば災害ですが、太陽系の成り立ちを明かすうえで非常に重要ですし、資源的な利用も考えられます。地球に近づく小惑星に行って遊ぶ時代だってくるかもしれない。小惑星って、すごくおもしろいんですよ」


 吉川さんや、世界各国の研究者たちが地球防衛に真剣に取り組んでいる。恐竜になりきっている息子にそのことを伝えると、元気な返事が返ってきた。


「グァアアアアアアアア~!!」


(編集部・川口穣)

AERA 2023年7月17日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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