岡山県井原市にあるJAXAの観測施設「美星スペースガードセンター」は日本スペースガード協会が運用を担い、小惑星の観測や軌道計算を行っている(写真:JAXA)
岡山県井原市にあるJAXAの観測施設「美星スペースガードセンター」は日本スペースガード協会が運用を担い、小惑星の観測や軌道計算を行っている(写真:JAXA)

「1億年に1度の被害は私たちが生きている間は心配なさそうですが、本当に心配ないかは確認が必要です。また、より小さく頻度の多い天体衝突でも大きな被害が出ます。どう回避するか研究するのは重要な課題です」


 天体衝突から地球を守る研究は「プラネタリー・ディフェンス(地球防衛)」と呼ばれる。アメリカ航空宇宙局(NASA)では2016年、欧州宇宙機関(ESA)では21年に専門部署がつくられた。JAXAにはまだ専門チームはないが、吉川さんが旗振り役となって議論を始めているという。


「やることは大きく分けて二つ。まず小惑星を見つけて軌道を推定し、衝突する可能性があるか探ること。そして実際に衝突する場合、回避する、あるいは被害を最小化することです」


 地球に接近する小惑星探索は、ここ20年ほどで盛んに行われるようになった。きっかけは1994年、「シューメーカー・レヴィ第9彗星」の木星衝突だ。彗星は直径数キロだったが、衝突された木星では地球の大きさと同程度の範囲に影響が及んだ。


「世界中の研究者が天体衝突の影響の大きさを目の当たりにしたんです。ちょうどその時期以降、望遠鏡の機能やデータ処理技術が進歩してより小さい天体も見つけられるようになりました。さらに、最近は実際の衝突に備えた研究も始まっています」


■今後100年危険なし


 地球に衝突する可能性のある小惑星の探索は、大型のものについてはほぼ完了しているという。天体観測施設「美星スペースガードセンター」を拠点に小惑星観測や軌道計算を行う日本スペースガード協会の奥村真一郎理事長はこう解説する。


「地球に接近する小惑星や彗星を『地球接近天体(NEO)』と言い、直径1キロを超えるものは既に大半が発見されたと考えられます。今後100年、地球に衝突する危険があるものはありません。今でも1年に数個見つかりますが、近い将来衝突する可能性はない軌道です。この規模が『ある日突然衝突する』ことはないでしょう」


 一方、小さなものは各国で発見が相次ぐ。数十メートル規模まで含めると今年だけで既に1200個以上見つかった。衝突が明らかなものはないが、未知のNEOも多数存在するのだ。

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