はやぶさ2から分離して地球に帰還した再突入カプセルが火球となり、尾を引いて落下する様子。小惑星リュウグウからのサンプルを持ち帰った。オーストラリア南部クーバーペディで(写真:JAXA)
はやぶさ2から分離して地球に帰還した再突入カプセルが火球となり、尾を引いて落下する様子。小惑星リュウグウからのサンプルを持ち帰った。オーストラリア南部クーバーペディで(写真:JAXA)
この記事の写真をすべて見る

 小惑星などの天体が地球に衝突すれば、規模によっては私たちは大きな被害を受けることになる。“地球防衛”の取り組みの最前線を追った。AERA 2023年7月17日号より紹介する。

【写真】氷結した湖に隕石片で開いた穴はこちら


*  *  *


「ショーワクセイがショウトツしたら、ぼくしんじゃうの?」


 4歳になったばかりの長男から、そう聞かれた。数カ月前に突然恐竜好きになった彼は、ひたすら恐竜の図鑑を眺め、録画した恐竜番組を見て、恐竜のおもちゃで遊び、恐竜のマネをして過ごしている。自分を恐竜だと思ってさえいるようだ。約2億3千万年前に誕生した恐竜は各地で繁栄したが、6600万年前、現在のメキシコ沖に小惑星が衝突した影響でほぼ絶滅したとされる。テレビ番組でそれを知り、不安になったらしい。


 思い返してみると記者自身、幼いころに同じ疑問を抱いた記憶がある。当時は恐竜絶滅の原因は確定していなかったものの、小惑星衝突も有力な仮説のひとつだった。ただ、両親にも、幼稚園の先生にも、「今そんなことは起こらないから大丈夫」と適当にお茶を濁された気がする。


 本当に起こらないのか。仮に起きる可能性があれば、どう対処するのか。宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の吉川真准教授を訪ねた。


仮に大型の小惑星が衝突すれば、地球環境は激変するかもしれない。破滅的な衝突から地球を守る研究が本格化している(写真:JAXA/NASA)
仮に大型の小惑星が衝突すれば、地球環境は激変するかもしれない。破滅的な衝突から地球を守る研究が本格化している(写真:JAXA/NASA)

■衝突は珍しくない


「実は、小惑星などが地球に衝突するのは珍しくありません。日々起きていることなんです」


 吉川さんの言葉にいきなり度肝を抜かれる。


「流星も宇宙のチリや石が地球の大気圏にぶつかって発光する現象です。ただし、ほとんどは小さなサイズで空中で燃え尽きます。一部は隕石として地上に達しますが、人間に影響を与えることは多くはありません」


 大きな被害が出た直近の事例は2013年。ロシア中部・チェリャビンスクへの衝突だ。およそ1500人が負傷し、建物4500棟が被害を受けた。衝突したのは推定で直径17メートルの小惑星だった。


「小惑星自体は空中でバラバラになりました。ただ、大気圏に突入したときの衝撃波が地上に及び、多数の建物で窓ガラスが割れるなどの被害が出たんです」


 この規模の衝突は数十~100年に1度起きると考えられるという。一方、恐竜絶滅のきっかけになった小惑星は推定で直径約10キロ。この規模になると1億年に1度程度だ。やはり、「心配ない」のだろうか。

著者プロフィールを見る
川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

川口穣の記事一覧はこちら
次のページ