「心疾患の最先端医療と地域密着の医療を両立することはかなり難しいことです。しかし、もともと当院はそれをある程度実践してきた病院なのです。東京・多摩地区にはそういう施設が少ないという背景もあり、以前から地域の患者さんのための循環器医療をおこない、なおかつ最先端の循環器医療を提供してきたのです」

心臓疾患診療における全国屈指の病院・榊原記念病院(東京都府中市)
撮影/上田泰世(写真映像部)
心臓疾患診療における全国屈指の病院・榊原記念病院(東京都府中市)撮影/上田泰世(写真映像部)

 今後はさらに、日本、世界の心疾患をリードする循環器専門の最先端病院と、地域に密着した地元の医療向上を目指す病院という両輪を回せるように尽力したいと磯部医師は考えている。現在、実践中の数々のプロジェクトについて説明してくれた。

 力を入れているのは、心疾患を患った人の2次予防だ。同院は従来心臓リハビリテーションに力を入れており、全国でも最も施行数の多い病院である。さらに「榊原の心臓を守る健康生活」というキャンペーンを実施している。3本立てのメニューがあるという。患者が自分の生活の中の努力で自分の心臓病のケアをできるのは結局食事、運動、薬の内服に限られる。そこでおこなっているのが、まず、お料理教室だ。患者のみならず一般市民も含めて、どういう食事をすべきかを指導する。

「たとえば、先天性心疾患の手術をした後、親御さんは、お子さんの食育にはものすごく気を使いますが、情報がないのが現状です。高齢者では、嚥下(えんげ)が困難な人は、どう食事をするか、心臓手術後の食事はどうすればいいかなどについて知ってもらう料理教室です。実際にレストランを借りるなど、最近はオンラインで実施しています」

 二つ目は運動教室だ。定期的に開催し、地域の会場を借りたり、スポーツクラブと提携したりして運動指導をおこなっている。

「心臓が悪い人は運動がしたいと同時に怖いんです。どこまでやるのが適正かという情報がほとんどありません。そこでわれわれは、薬の処方のように『運動処方』をします。たとえば、あなたの場合は心拍数110まで。平地でトレッドミルで傾斜0度で1時間に6キロ程度の歩行というように指導します」

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近年は高齢者に対する心不全対策も