三つ目が薬についての教室だ。薬局チェーンと提携して講演会を実施している。
■高齢者に対する心不全対策で再入院を減らす
近年では高齢者に対する心不全対策も重要な案件だ。磯部医師は、2010年、日本心不全学会会長の時、初めて公開講座を実施した。その時のキャッチフレーズが「隠れ心不全」だった。
「心不全は心疾患の成れの果てなので、あらゆる心疾患に関係しています。したがって心不全の人が激増しています。特に高齢者のケアをどうするかが課題です。2週間入院して治療して帰っても、また戻ってくるような人も多いです。当院でも6週間以内の再入院率は15%くらいです。これを減らすためには、市民の皆さんを啓発していくことが大切です」
磯部医師は、2023年からは地域の医師とともに心不全をなくすキャンペーンも始めている。心疾患を患った人が心不全にならないようにする2次予防だ。
同院のような基幹病院の役割は単に訪れた患者を診るだけではなく、こちらから一歩病院の外へ出て、活動することが大事だと磯部医師は力説する。「榊原の心臓を守る健康生活」のみならず、さまざまな市民啓発活動をおこなっている。
「『キッズセミナー』といって、市中のお子さんを集めての心臓教室を開催しています。エコーを自分で撮る、救急車に乗る、心臓蘇生などの体験してもらうのです。職業体験とともに、お子さんに病人に対するいたわりと共感の心を持ってもらうことも目的としています。妊婦さんのヨガ教室もやっています。病院の活動は病院の中だけにとどまらず、社会に広げていかないと地域医療支援病院としての役割を果たせません。これからも市民とのふれあいを大切にしていきたいです」
■診察なしで心エコーだけ撮って帰れる「ファストエコー」
地域の医師とのコミュニケーションや啓発活動も密におこなっている。
「医師会とともに心不全の早期発見プログラムをやっています。血液でBNP(脳性<B型>利尿ペプチド=心臓への負担を調べる指標)を測り、心エコーを撮るために患者さんを当院へ送ってもらうのです。通常だと患者にとっても、開業医の先生にとっても当院に受診紹介するのはおそらくハードルが高いのです。そこで府中市の医師会会長と相談して、ファクス1枚で予約できるシステムを作りました。診察なしで心エコーだけ撮って帰れるようにして、その結果のリポートを開業医の先生に送り、患者さんに説明してもらうのです。『ファストエコー』と呼んでいます」