まさか、痔の手術で死んでしまうとは。6月20日、愛知県医療療育総合センター中央病院(同県春日井市)は、10代の男性患者が痔の手術後に出血性ショックで死亡する医療事故が2年前にあったと発表した。男性が重度の脳性まひを抱えていたり、心肺蘇生時に投薬ミスもあったりと、悪条件が重なった背景はあるが、痔の手術によって命を落とした事実は、医療関係者にも衝撃を与えた。日本人の3人に1人が悩んでいるといわれる、痔。死のリスクを負って手術しなければ治らないのだろうか。
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開業88年の歴史を持つ平田肛門科医院(東京都港区)の平田雅彦院長は、事故の報道を受け、「一体何があったのか……」と首をかしげる。
「痔の手術は手技が確立されていて、1時間以内で終わるものばかり。肛門科の専門医が痔の状態を見極め、きちんと手術プランを立てて臨めば、事故が起こることはほとんどありません。もし病院内に専門医がおらず、痔も重症化していて手術難易度が高かったのだとしたら、別の病院に引き受けてもらうことはできなかったのかと悔やまれます」
痔の手術は、あまたある手術のなかでもリスクが少ない部類に入る。しかし、患者自身の「術後管理」が不可欠という点で、特有のハードルがあるという。
「肛門は多くの血管が走っていて、傷口が開くと大量出血する可能性があります。手術当日は排便をしない、翌日以降排便する際は力まないよう気をつけるなど、極力肛門に負担をかけないよう、患者さんの協力が欠かせません。もし、今回亡くなった男性が脳性まひによって意思疎通が難しかったのだとしたら、一時的に腸の動きを止める薬や、便をやわらかくする薬を使うなどの対策が必要になり、術後管理はぐっと難しくなると思います」
日本では、痔の治療=手術のイメージを持つ人が多く、実際、手術を積極的に行う病院も少なくない。だが平田院長によると、痔のなかで最も症例の多い「いぼ痔」の手術率は、イギリスやアメリカではわずか5%ほど。欧米では、切らない治療が主流だそうだ。