そんな『ごっつええ感じ』が多くの人々の記憶に残っているもう1つの理由は、番組終了時のトラブルである。1997年9月に、この番組の特番が急きょ野球中継に差し替えられたことがあった。それがフジテレビから事前に伝えられていなかったことに松本は激怒して、番組収録をボイコットすることにした。その結果、『ごっつええ感じ』は打ち切られることになり、ここからダウンタウンとフジテレビの関係が急速に悪化した。

 その因縁はしばらく尾を引いていた。『ごっつええ感じ』は大人気コンテンツであるにもかかわらず、原則として地上波で再放送されることがなく、バラエティ番組の歴史を振り返るような特番でもその映像が使われることはなかった。フジテレビの中でも『ごっつええ感じ』は一種のタブーになっていた。

 そんな中で今回、「ほぼごっつ軍団」として当時のメンバーが勢揃いするというのは歴史的な出来事である。ダウンタウンとフジテレビの関係が良くなり、今田や東野といった当時のレギュラーメンバーはいまやテレビ界を支える大御所芸人になった。

彼らが「ごっつ」の旗のもとに一堂に会して、いま脂が乗っている千鳥、かまいたちらの後輩芸人と対峙するというのは、それだけで興味深いことだ。

 最近、何かにつけて「引退」をほのめかすような発言をしている松本が、今回あえて千鳥・かまいたちに胸を貸すというのは、彼らを後継者(候補)として認めている気持ちの表れなのかもしれない。雑誌『SWITCH』VOL.41(スイッチ・パブリッシング)のインタビューでも、松本は彼らの名前を挙げている。

(前略)それこそ千鳥とかかまいたちとか、ほんまのところダウンタウンの存在ってどう思てんねやろな。訊いてみたいよね。(中略)もう一、二組ぐらいダウンタウンみたいなのがおったらええなと思ってるんやと思うで。ダウンタウンがちょっと突出してるから面倒くさいんだよね。でも、あいつらがその一、二組にならなあかんってことやからな。

 この何気ない発言の中にも、松本の後輩芸人への期待と叱咤激励の気持ちがうかがえる。「ほぼごっつ軍団」と「千鳥、かまいたち、ダイアン」の戦いは、実質的にお笑い界の王位継承戦であるとも言える。お笑い好きであれば見逃すわけにはいかない世紀の一戦なのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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