あの頃で言えば、高見山さんがハワイからやって来たのも驚きだったね。外国人力士は高見山さんが第一号だろう。俺も「こいつがハワイから来た奴か」って物珍しくて、支度部屋で観察していたよ。彼は真面目で一生懸命相撲に打ち込んで結果を残したからこそ、後にハワイだけでなくモンゴルやヨーロッパと海外に目を向けるようになったからね。彼が箸にも棒にもかからなかったら、今のように外国人を受け入れていなかったんじゃないかな。そういった意味でも高見山さんの功績は大きいよね。
一方で、プロレスこそ控室の過ごし方は千差万別で、練習する奴は試合前に追い込むし、何もしないやつはプラプラして客席を見に行ったり、友だちと話したり。俺は知っての通り、不機嫌な顔をしてイライラしながらリングに上がるのが好きだった(笑)。
でも、俺の周りの選手も緊張感を持った選手が多かったと思う。プロレスはバックドロップで首の骨を折るとか、ひとつ間違うとアウトだから、相撲よりも緊張感や恐怖感があった。相撲はひとつ勝てば番付が上がる、下がるだけど、プロレスは死に直結するからね。だから余計にくだらない話をして気持ちを和らげる奴も多かったね。
プロレスの控室は対戦相手同士で分かれていて、ほかには外国人レスラー専用の控室がひとつもうけられているのが通例。外国人レスラーは試合前にコーヒーを飲んだり、トランプをしたり、英語でコミュニケーションを取るから、ほかの日本人に邪魔されたくないんだろう。これは力道山関の日本プロレスからの伝統じゃないかな。
体育館の場合はどこでも控室は大差ないけど、屋外の野球場や広場で試合をするときは大変だ。屋外にテントを張って、電球ぶら下げただけで「ここが控室です」っていうのも多かったよ。シートが敷かれているわけではなく、草むらの上にイスだけ置いてあるような場所。トイレだって客と一緒の簡易トイレだし、もっとヒドイところだとそこらで立小便しなきゃいけないから悲惨だよ。