岸田首相は、こども未来戦略方針を発表した6月13日の会見で、児童手当の拡充について「3人のお子さんがいる家庭では、高校を卒業するまでの児童手当の総額は、最大で約400万円増の1100万円になる」と説明した。
しかし、北村さんの試算によれば、これだけの恩恵が受けられるケースは、ごく限られるという。
北村さんによると、3人きょうだいの子どもがいる場合、手当が一番多くもらえるのは三つ子のケースだ。0~18歳までそろって支給が受けられるため3人合計で総額1116万円がもらえる。
これに対し、最も少ないのは、長男が高校を出た後に第3子が生まれるケース。前述のように、三男は「第2子」として扱われるため、月額3万円の恩恵は受けられない。きょうだい3人への支給額の合計は702万円となる。
二つのケースでは差し引き414万円もの差が出る計算だ(上の表)。
北村さんの試算からは、最も年齢の高い子どもと、3番目の子どもの年齢差が開くほど、もらえる手当は少なくなることが読み取れる。
かりに長男と三男の年齢差が3歳離れていると仮定すると、三男は支給期間の最後の3年間、つまり高校生の間は月額3万円ではなく、月額1万円しか受け取れない。きょうだい3人への支給額は計1044万円で、最も多くもらえる三つ子のケースより72万円少なくなる。
厚生労働省の「人口動態調査」によると、21年に三つ子ができた割合は総分娩件数のうちの0.02%前後。双子の1・08%よりも、さらに少ない。
岸田首相は、そんなレアケースをたとえに出して、声高に宣伝しているのだ。北村さんは言う。
「三つ子でなければ恩恵がフルに受けられないことこそ、まさに『異次元』だと思います。月額3万円に拡充したからといって、子どもを3人つくる動機づけになるとは思えません。本気でやるのなら、例えば月5万円や同10万円など、大胆に増やすべきだと思います」