ハバナの老舗ホテル、オテル・ナシオナルのバーで。一瞬、夢のような色彩を見せてすぐに消え去った。この世と人生のはかなささえ思わせる美(撮影/板垣真理子)
ハバナの老舗ホテル、オテル・ナシオナルのバーで。一瞬、夢のような色彩を見せてすぐに消え去った。この世と人生のはかなささえ思わせる美(撮影/板垣真理子)
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 そろそろ海外旅行に行きたいと考えている人もいるだろう。カリブ海の島国・キューバで異文化体験はいかが? 25年通い続ける写真家が現地からいまのキューバを報告する。AERA 2023年7月10日号より紹介する。

【写真】バラデロのとろけるように美しい海

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 いまキューバは私が25年見続けてきた中で、これまでにないほどの過渡期を迎えている。その理由の一つは、言わずと知れた新型コロナウイルスによるパンデミックの影響だ。

 2020年にはキューバ滞在中にロックダウンを経験し、私も6カ月間、ホテルで巣ごもり生活を送った。ただ、キューバは医療意識の高い国として国産ワクチンを開発、国民への接種も順調に進んで21年11月には外国人の受け入れも再開した。今こうして現地で原稿を書いている私はコロナのことをほぼ忘れていられる。そのありがたさを享受し、この国の良さ、楽しさ、美味しさを徹底して味わいたい。

 キューバは言わずと知れた音楽大国。ルンバやソン、マンボなどなど、ここで書ききれないほど多くのダンス音楽と優れた歌を生み出してきた。

今はこの黄色い花の季節。背景はカピトリオと、大劇場=グラン・テアトロ(撮影/板垣真理子)
今はこの黄色い花の季節。背景はカピトリオと、大劇場=グラン・テアトロ(撮影/板垣真理子)

■「楽しませるのが一番」

 今回の滞在中に、キューバの国民的サルサバンド「ロス・バン・バン」の現リーダー、サミュエル・フォルメル氏にインタビューした。

 彼の父親は、バン・バンの創始者であり長年のリーダーで、カリブ全体、いや世界の音楽に影響を与えてきたフアン・フォルメル。サミュエルの語る言葉全てに、父に対する尊敬の気持ちが見えたのも印象的だった。

 今年8月には13年ぶりにフルメンバーで来日し、福岡、東京、名古屋、大阪で公演も控える。

「僕たちは人々を楽しませるのが一番大切なんだ。いつもみんなが何を求めているかを見ている。巷(ちまた)で語られる言葉を拾って歌詞にすることもあるくらいだよ。でも今はね、現実を語る時ではない。喜びが先だ。みな、一生懸命なんだから」

 しかし、一方で現地でのライブの情報を得るのは簡単ではない。全て現場での確認が必要だ。

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