「後先考えずに産みたいと思えるほど、もう若くはないものの、やっぱり産んでみたいし育ててみたい。そう思えるようになったのも、卵子凍結の経験があってこそです。それに、もし結果的に産めなかったとしても、“私、産みたかったけど産めなかったんだ”と明るく堂々と話して、生きていきたい」

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 厚生労働省の「人口動態統計」(2021年)によれば、現在の日本の第1子出生時の母親の平均年齢は、30.9歳と上昇傾向にある。

 生殖工学博士として、卵子凍結のカウンセリングや凍結卵子の保管サービスを行うプリンセスバンク代表の香川則子さんは、これまで3千人を超える女性のカウンセリングを通じ、妊娠や出産に悩む女性の声に向き合ってきた。その多くが、30代後半以降に妊活が始まりそうだと感じ、漠然と「いつかは一人ぐらい産めるはず」と思っている、働く女性たち。相談に来る時点ではパートナーがいない女性が多く、「卵子の老化だけは自分一人でどうにか回避できそうだとアクションを起こすようです」(香川さん)

◆卵子凍結を「エア妊活」と呼ぶ理由とは

 卵子凍結のポイントの一つに、独身の女性であっても、卵子の保存が可能だということがある。その時点ではパートナーがいなくても、将来の妊娠に備えて一人でできることから香川さんは“エア妊活”とも呼んでいる。いわば、子どもが欲しくなった時に、なるべくスムーズに妊娠できるよう、産むための体や気持ち、環境を少しずつ整えていくことを指す。

 その一方で、香川さんは、卵子凍結について、「未来のための保険のようで、実は今の自分を守る技術でもある」とも言う。いわく、卵子凍結は万人が必要な技術ではなく、今何らかの理由で産めない人が、「いつか産める可能性をキープするための技術」。可能性をキープすることで、「かけがえのない今を安心して生きるための技術とも言えると思うのです」(同)。

 産み時に悩む現代の女性たちの福音となるのか。次回は卵子凍結のメリット、デメリットを点検していく。(松岡かすみ)

>>【次回:「今が一番若い」未婚の会社員女性39歳が総額100万円で18個の卵子凍結 「意外なデメリットも…」】※6月23日16時公開です。

>>【次々回:なぜパートナーに出会えた管理職女性44歳は卵子を廃棄したのか 「産まない」決断の裏側】※6月24日16時公開です。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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