例えば、妊娠が成立するためには、卵子の年齢だけでなく、卵子の質、子宮の状態、精子の年齢、精子の質、精子と卵子の相性など、様々な要素が合致する必要があること。たとえ卵子凍結をしても、将来いつか自分が子どもを欲しいと思ったときに、それを確実に実現できる保証はないこと。凍結した卵子が受精できるか、また受精卵が子宮に着床して無事に出産できるかは、全く別の話であること――。
こうした知識を得ながら、卵子凍結をするうえで自分の体としっかり向き合ったことで、結果的に「子どもを産むこと」について、より自分事として深く向き合い、現実的に考え始めるきっかけになった。
◆卵子の老化は止められず、でも焦りは消えた
当初の期待とは裏腹に、「子どもを産むこと」について考えることからは解放されなかったものの、卵子凍結をしたことで、それまで漠然と抱えていた焦りや不安が消えたという。それは、将来の妊娠につながる卵子が冷凍保存されている、ということで生まれる安心感ではない。自分の体の限界を、数値や診察に基づいて知っていったことで、自身の現状に対する理解が深まったことへの安心感だ。
「私の妊娠率のピークはとっくに過ぎており、卵子の老化は止められず、その数は日々減り続けている。それは何をどうやっても変えられない事実としてあるけれど、これは別に、目を背けるべきことでも、恥ずかしいことでも、不安を感じることでもないんだ、というごくごく当たり前の真実に改めて気づかされたんです。結果、私の心は落ち着きを取り戻し、やみくもに焦ることがなくなりました」(本多さん)
実は卵子凍結をしたことで、予想外に「子どもを産んでみたくなった」と言う。卵子凍結をするにあたって、子どもを持つ友人に妊娠に至るまでの話を聞いたり、不妊治療を中断した人の話を聞いたり、10代から婦人科に通っている後輩の妊娠プランを聞いたりなど、妊娠や出産について周りとコミュニケーションを取る機会が格段に増えた。妊娠情報にどっぷりとつかった期間を経て、そして卵子を採取し凍結するという経験を踏まえ、いつの間にか「子どもを産んでみたい」と思う自分がいたという。