卵子凍結とは、卵巣から採取した卵子を体外に取り出し、将来の妊娠に備えて冷凍保存する技術だ。出産したいタイミングで融解し、体外受精で妊娠を目指す。元々はがんや白血病など病気の治療で生殖機能を失う可能性のある女性たちを対象に行われていた医療行為。2013年から、健康な女性であっても利用できることになり、加齢などにより生殖能力が衰え、子どもができない状態になる前に凍結する「社会的適応」と呼ばれる卵子凍結が少しずつ広がってきている。近年は女性の社会進出とともに晩婚化、晩産化が進む中で、健康な女性が将来的に産める可能性を保つための選択肢として、未婚の女性を中心に注目を集めている。

 おおむね体外受精をする場合と同じ流れで、(1)卵巣刺激(2)採卵(3)凍結保存――が主なステップで、受精の前までの部分のみ進行する。卵子1個あたりの妊娠率は、5%程度といわれており、未受精の卵子であることも踏まえ、できれば15~20個の卵子を凍結しておくことが望ましいとされている。

◆生殖能力を数値で示され自分の無知さを痛感

 本多さんは、体外受精をした友人らの体験談を聞いたり、関連書籍などを読んだり、調べていくうちに、卵子凍結という技術そのものに、強い興味を持つようになり、「誤解を恐れない言い方をすれば、20代で全身脱毛をしたときのような感覚で、シンプルにやってみたい・試してみたいと思った」という。また、「子どもを産むか産まないか」という問いから解放された、自由でマイペースな恋愛を、卵子凍結は実現してくれるかもしれない、という淡い期待も後押しになった。

 卵子凍結は多くのクリニックが手掛けているが、本多さんの決め手となったのは説明の丁寧さ。初診の前にみっちり2時間、オンラインで説明を受け、妊娠のメカニズムから卵子の老化、そして卵子凍結のプロセスや費用についてまで、一つひとつ理解ができたことで「ここにしよう」と思えた。

取り出した卵子(本多さん提供)
取り出した卵子(本多さん提供)

 本多さんは1回目の採卵手術で9個、2回目で12個の卵子を採取し、合計21個の卵子を保存した。2回の手術を経験したが、「そんなにおおごとではなかった」というのが正直な感想だ。医師からも言われたが、もともと痛みに強いほうであることも大きいかもしれない。術後は生理痛のような鈍痛を感じたものの、1回目の術後は、数時間後にはネイルサロンに行けたほど。2回目の術後はつらさを感じ、病院から電車で帰宅後は、数時間ベッドで体を休めた。

 本多さんは、実際に卵子凍結を経験したことで生まれた変化がいくつかある。なかでも大きかったのが、自分の年齢における妊娠・出産率や、子宮の状態、排卵状況、採卵できる卵子の数など、これまで知らなかった自身の生殖機能の状態を数値で示されたことで、自分についての理解が深まったこと。それは言い換えれば、37歳になるまで妊娠についての知識をほぼ持たず、「排卵日に性交渉すれば妊娠するだろう」程度に考えていた自分の無知さを痛切に感じる時間でもあったと言う。

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私の妊娠率のピークはとっくに過ぎている