それが2年前、本多さんが36歳のときのこと。祖母を看取ったあと、心にぽっかりと穴が開いたような気がした。恋愛や結婚よりも尊い、祖母と過ごす時間。一人になり、近くに愛情を注ぐ相手がいることが、いかに自分にとって大事なことだったのかを、身にしみて感じるようになった。

 結婚や子どもについて思いを巡らせるようになったのは、自然な流れだった。36歳。産もうと思えば、まだ産める年齢だ。

◆出産のタイムリミットを考えながら恋愛できるか

 このとき、本多さんは一足とびに卵子凍結を選択したわけではない。恋愛をして、結婚をして、子どもを産む、そんな順番で進む人生を思い描いていた。まずは恋人をつくろうとマッチングアプリで相手を探し、実際に交際相手を見つけ、いくつかの恋愛もした。しかし、なぜか気持ちが前向きになれない。

 気づけば、相手のことが好きかどうか以上に、「この人と将来子どもをつくることがあるのだろうか」という問いに対する答えを、どこかで求めている自分がいた。「子どもを産みたいか」という大きな問いを、常に頭の端に抱えながらする恋愛に、次第に苦しい気持ちになっていた。

 そもそも、ライフプランや価値観を互いにすり合わせながら結婚に向かうという恋愛のスタイルも得意ではない。たとえ短期間で別れてしまったとしても、その時々でドキドキするような恋愛を楽しみたい性格だ。

 出産のタイムリミットを考えれば結婚につながる恋愛をしたい、でも子どもを意識すると恋愛そのものが苦しくなる。このジレンマを何とか解消できないかという思いが、卵子凍結という選択につながった。卵子凍結については、メディアでの報道や不妊治療を受けている友人らの話を通じ、「将来の妊娠・出産に備えるための技術」として、何となくは知っていた。

「私はいったい、本当に子どもが欲しいのだろうか――。子どもを産みたいかどうかの答えを出すのを、もう少し先延ばしにしたい」

 そんな思いから、本多さんは卵子凍結を選択した。

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