講演会は1時間ほどで終わった。帰ろうとすると、壮婦たちは口々にいのうえさんを引き留めた。「これから座談会をするのに」「まあ、すてきなお召し物ですね」。取り囲むように、会場の外までついてくる。
そこで偶然、知人に出会った。「あら、どうしたの」。話を始めると、いつの間にか壮婦たちは姿を消していた。
かつて30~40代が中心だった主婦信者たちの高齢化を感じたが、勧誘の手口は驚くほど変わっていなかった。
「昔は夫が一流企業に勤めているような主婦をターゲットにしてきたわけですが、最近は金持ちの専業主婦が少ない。なので、今は富裕層のおばあさんにねらいをつけている」
■「子育ての後に何かしたかった」
さらに、いのうえさんは主婦と教団、政治家とのつながりを指摘する。
いのうえさんの夫の母親は地元の自民党県連で長年要職を務めていたこともあり、自身も選挙の裏側を間近で見てきた。
「かつて議員に立候補する人は、その地域の名士が多かった。『いつもお世話になっているから』と、地域のみんながその人を応援する。当時は金をばらまかなくても票が集まりました」
ところが高度経済成長期になると、地方から都市部へ若者たちが流出し、結びつきの強い人間関係に根ざして票を集めてきた政治家たちの基盤が崩れていった。若者を引きつけた都市部も、会社に通う夫と家庭を守る妻が住む新興住宅地は、政治家にとってしっかりした集票基盤になりにくい。「そこに旧統一教会は実にうまく入り込んだ」と、いのうえさんは言う。
「マインドコントロールされた素直な若い信者が、一生懸命に選挙のビラ配りとかをしてくれるわけですよ。しかもタダで。それは候補者側にとってはとてもありがたいことです」
そのような選挙活動で得た情報を基に主婦信者が同じ主婦を食いものにしてきた構図は、先に書いたとおりである。
何人もの主婦がいのうえさんに「子育ての後に何かしたかった」と、入信の動機を語った。それが数多くの献金被害に結びついてきた現実は悲しい。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)