旧統一教会が2004年ごろ、430万円で売っていた「天聖経」(撮影・米倉昭仁)
旧統一教会が2004年ごろ、430万円で売っていた「天聖経」(撮影・米倉昭仁)

■子連れの主婦信者も

 裁判の過程で、彼女たちは歌手の桜田淳子さんが参加して話題となった1992年の合同結婚式の参加者だということも明らかになった。

 いのうえさんは94年、「天地正教」の道場に潜入取材したときに目にした主婦信者と、裁判所での壮婦たちの姿が重なった。

 旧統一教会は霊石愛好会、アジア平和女性連合など、いくつものダミー組織を使って活動してきた。天地正教もその一つで、99年に事実上、旧統一教会に吸収された。

 西関東の都市にあった天地正教の道場に集まったのは50人ほど。約7割が女性で、子連れの姿もあった。

 祭壇には弥勒(みろく)菩薩像や多宝塔、壺(つぼ)が置かれ、赤や青の光が当てられていた。やがて、道場に信者の歌声が響き渡った。

「安倍元首相銃撃事件で起訴された山上徹也被告のお母さんと同じ世代の女性たちでした。主婦が圧倒的に多い。教団は彼女たちから子育てや夫にまつわる悩みを引き出して、『霊感商法』でいろいろな物品を買わせたわけです」

 主婦は夫の「財布」を握っていることが多く、「教団はそこをねらってきた」という。後になって多額の献金を悔やみ、消費者センターなどに相談しても、それを公表することを拒む主婦が多い。なので、明らかになる献金被害は氷山の一角だという。

■「駆け込み寺」だった教団

 霊感商法は「因縁トーク」から始まる。

「先祖のたたりをうまく使いますね。戦死したあなたの先祖は海の底で今も苦しんでいる、とか。それが原因で、子どもが病気がちだ、夫が浮気している、姑と不仲だとか言うわけです。そして、先祖に成仏してもらうために必要だとして多宝塔や壺、玉などを高額で購入させる」

 なぜ多くの主婦が旧統一教会に引きつけられて、騙され、金を出してしまったのか?

 いのうえさんは、背景にあったのは都市化や核家族化だと指摘する。高度経済成長期、地方から都市部に移り住んだ若者たちは結婚して家庭を築いた。まだ共働き世帯は少数派で、「夫は仕事、妻は家事と子育て」の時代である。

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「先祖を大事にしなかったから」